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仙台育英・須江監督が語る“勝つ野球”の極意。「競技性の理解」から始まる野球論

2022/08/06

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産経新聞社



大会中は「バッティングとは向き合わない」

(以下2020年5月刊『高校野球界の監督が明かす! 打撃技術の極意』より一部抜粋)
 
 練習で培った力を、試合で発揮するにはどんな考えが必要になるのか。須江監督は、意外な言葉を口にした。
 
「大会が始まったら、もうバッティングとは向き合いません」
 
 こんなことを言う監督は珍しい。どういうことか?
 
「打った打たないは、あくまでも結果です。バッティングと向き合うことは、練習で終わらせておかなければいけません。簡単に言えば、『数字と向き合わない』ということです。トーナメントに入ってから、数字に向き合うと、バットが振れなくなります。選手は周りが何も言わなくても、嫌でも打率を意識しますから」
 
 2試合無安打が続くと、8打数0安打や9打数0安打になる。選手本人としては、打率が悪いことは当然わかっている。そこで、監督までもが数字に固執していたら、選手は余計に結果を意識してしまうことになる。そして、結果を気にすることで、トップが浅くなり、ボールとの間合いが取れなくなる悪循環にはまりかねない。
 
 実戦で意識することは、「やるべきことをやる」。そこに尽きる。結果思考ではなく、取り組み思考に持っていく。わかりやすい例を挙げると、狙い球がそのひとつだ。

 以前、秀光中の試合を見ていて感心したのが、「太ももから上!」「胸の高さまでオッケー!」と言うように、選手同士で狙い球の確認をしていたことだ。それも、体の部位で意思疎通していることに驚かされた。そこには、「高めや低めは、主観的な表現であり、選手によって考え方が変わる」という須江監督の考えがある。胸が「高め」だと思う選手もいれば、肩が「高め」だと思う選手もいるだろう。それを防ぐために、ふともも、ベルトなど、誰もがわかる「共通言語」で会話をする。
 
「基本的には、低めの変化球を振らないために、ストライクゾーンを上げさせています。でも、それは全員ではありません。ヒザの高さのほうが、バット軌道が合っている選手は、振りに行っていい。最終的には、個人の特徴を見たうえで、自由を与えるようにしています。打つ球の選択は、非常に重要だと感じます」

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