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松沼博久・雅之、ドラフト外の肖像#3 一躍プロ注目選手へ。それでも想いは「兄弟で都市対抗優勝しよう」

日本プロ野球では1965年にドラフト制度導入後も、ドラフト会議で指名されなかった選手を対象にスカウトなどの球団関係者が対象選手と直接交渉して入団させる「ドラフト外入団」が認められていた。本連載ではそんな「ドラフト外」でプロに入団した選手1人の野球人生をクローズアップする。

2018/10/11

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「兄弟で都市対抗優勝しようぜと」

 松沼の評価を確固たるものにしたのは、10月から11月にかけて行われた社会人野球日本選手権だった。
 
 1回戦から松沼は好投を続け、東京ガスは決勝に進出した。決勝戦の北海道拓殖銀行戦でも松沼はスコアボードに0の数字を並べていく。
 
 『毎日新聞』は松沼の投球をこう描写している。
 
〈初め右翼打ちを試みたり、途中バントを仕掛けてみたり、拓銀はなんとか松沼攻略を果たそうとした。しかし、松沼は五連投の疲れを少しも見せず〝生きた球〟を投げ続けた。(中略)松沼は東京ガスというチームを背負って、ただ一人で立ち向かっているように見えた。
 
 松沼はカーブを狙われているとみると、速球とシュート主体の投球に切り替える。七回二死から初めて連打を旅手一、三塁と迫られても、内角を攻め抜いたあと、外角へ浮き上がる速球を決めて坂田を三振に抑え込んだ。全く揺らぐことを知らない松沼の投球だった〉(11月6日付)
 

 
 そんな松沼に一瞬の隙が出来たのが9回だった。四球で出した先頭打者をバントで送られ、ヒットエンドラン気味の安打と走塁で1点を失う。これが決勝点となり0対1で敗れた。
 
 大会終了後の11月17日、弟の雅之が東洋大学から東京ガスに入社することが発表された。この日、野球部の練習に顔を出した雅之は部員の前で挨拶をしている。
 
「ぼくは監督だった江口(昇)さんが好きで、信頼していたんです。だから弟を入れて、兄弟で都市対抗優勝しようぜと」
 
 しかし、その通りにはならなかった。
 
 

書籍情報

『ドラガイ』2018年10月15日発売
(著者:田崎健太/272ページ/四六判/1700円+税)
 

 
<収録選手>
CASE1 石井琢朗(88年ドラフト外)
CASE2 石毛博史(88年ドラフト外)
CASE3 亀山努 (87年ドラフト外)
CASE4 大野豊 (76年ドラフト外)
CASE5 団野村 (77年ドラフト外)
CASE6 松沼博久・雅之(78年ドラフト外)

 
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ドラガイ
 

【著者紹介】
田崎健太 たざき・けんた
1968年3月13日、京都市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部などを経て、1999年末に退社。スポーツを中心に人物ノンフィクションを手掛け、各メディアで幅広く活躍する。著書に『W杯に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇―』(新潮文庫)、『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社)、『維新漂流 中田宏は何を見たのか』『真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男』(集英社インターナショナル)、『ザ・キングファーザー』(カンゼン)、『球童 伊良部秀輝伝』(講談社 ミズノスポーツライター賞優秀賞)、『真説・長州力 1951-2015』『真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男』(集英社インターナショナル)『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』

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