ドジャース、“投手・大谷翔平”はエース級ピッチャーに戻れる…?立ちはだかる“MLBの壁“とは【コラム】
2025/06/10
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5月下旬に右肘手術後初めてのライブBPを行うなど、復帰への道のりを着実に歩んでいるロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平。ロサンゼルス・エンゼルス時代はエースとしてチームを牽引した大谷だが、ドジャースでの役割、投球スタイルはどう変化するだろうか。今回は、ドジャースとしての投手・大谷翔平についてフォーカスした。(文:Eli)
エンゼルス時代の投手・大谷翔平
2018年にMLBデビューを果たした大谷は、フォーシームを軸にスイーパー、スプリットを変化球としてバランスよく使う投球スタイルだった。
2021、2022年ごろにMLBでスイーパーブームが起こると、その波に乗るようにスイーパーの割合を増やしていき、2022年にはスイーパーが全球種トップの使用割合となった。
特に対右打者には半分以上を占めるまでになった。スイーパーにより大きい曲がりを持たせるためにオーバースローからサイド気味のスリークォーターまで腕を下げた。さらに年を経るごとに球種が増えていき、2021年にはカッター、2022年にはシンカーが導入された。
最終的に故障前の大谷はスイーパーを軸にカウント球/決め球として用い、それを補完する球としてフォーシーム、カッター、シンカー、第2の決め球としてのスプリット、タイミングを外すカーブといった球種構成となっていた。
全体的なスタイルとしては球威制圧型で、BB%10.4、Location+90に現れる制球力の悪さを、前述のスイーパーを駆使して空振りを量産しカバーしていた。
大谷の故障中にMLB投手トレンドに変化が…?
MLBでは日夜研究開発が行われており、新たな手法が発展されるとその対策が1年もしないうちに考案されることが多い。これは大谷が投球の軸に置いていたスイーパーも同じだ。
2022年に大流行したスイーパーはその後順調に割合を伸ばしてはいるが成長速度は鈍化している。また打者側も対応しており対スイーパー打率は上昇、空振り率は下降傾向にある。
また、スイーパーは反対打者(右vs左、左vs右)に対して非常に効果が薄いことが知られている。故に一部の圧倒的な球威を持つリリーバーを除いて反対打者に対するスイーパーは使われていない。
更にスイーパーは肘に大きな負担をかけることが分かっている。スイーパーを大きく曲げるには強烈な横回転をかける必要があり、この時に肘に大きな負担がかかると言われている。
以上2つの理由から、大谷がフルスペックの先発投手として戻る場合、成績面でも健康面でもスイーパーを減らすことを余儀なくされるだろう。
2022年の大谷はスイーパーのトレンドに乗ることでステップアップした。2025年のトレンドは球種ミックスだと言われる。2022-2024はスイーパー、スプリットと1球種がフォーカスされたが、今年の流行りは投手の武器である球種の数を増やすことで打者を様々な方法で打ち取っていくアプローチだ。
大谷もこのトレンドに乗るべきだ。最も大きなメリットとして前述した効力低下や故障増加などのリスクを抱えるスイーパーの割合を減らすことができる。
さて、増やす球種だが、大谷の回復具合に応じて参考選手を用意した。大谷が再度最速100マイル(約160キロ)、平均96-97マイル(154~156キロ)を出せる場合、ボストン・レッドソックスのギャレット・クロシェ、球速が下がる場合はセントルイス・カージナルスのソニー・グレイだ。前者は剛腕寄り、後者は技巧派寄りと言える。クロシェは左投手だが左右逆に考える。
対左打者に対してはクロシェ型ならフォーシーム、カッターを軸に攻め、スプリット、スイーパーを決め球とする。左打者にとっては内角に食い込んでくるカッターは非常に有効で、クロシェは30%を使っている。
フォーシームはより中性の球だが、球速が出れば有効になるだろう。逃げ落ちるスプリットを基本的な決め球とし、スイーパーは割合を落とすことでサプライズの要素を出す。
グレイ型なら持てる6球種を均等に散らすことで打者に狙い球を作らせないようにする。様々な球種を様々な球速で投げることで、三振というより弱いコンタクトを狙っていく作戦だ。球威で押すのとは異なり各球種をしっかり制御する必要がある。
右打者に対する大谷は従来どおりスイーパーを軸として組み立てることに変わりはないが、肘への負担を減らすために少しスイーパーを減らすべきだ。
理想はクロシェ型で、フォーシーム/シンカー/カッターの速球系で攻めスイーパーを決め球にするのが良い。速球系で押せない場合はシンカー/スイーパーの横変化を軸に組み立てるのが良い。
どちらのモデルにしろ、共通するのはスイーパーの割合を下げ、速球系の割合を上げることだ。
“長い目で”見ることが大事
2度目の手術はある程度のリスクがあり、大谷が元の剛腕ピッチャーに戻れる可能性は高くない。
米メディア『The Athletic』のKen Rosenthal氏は、投手大谷が戻ればドジャースのプレーオフローテーションの1番手になれるとの一部スカウトのコメントを報じていたが、現実的に考えてそれは難しいし、編成のリスク面でも怪我明けの投手に頼るのは危険だ。
故に投手大谷の未来は長い目で見るべきだろう。2度のサイヤング受賞投手、ロビー・レイは2023年5月に手術を受け、2024年7月に復帰したが、8月末にハムストリングの怪我で故障するまで7先発30.2回をなげ防御率4.70と微妙な成績であった。
しかし、今シーズンは開幕からローテを張り、日本時間6月9日時点で13先発77.1回をなげ防御率2.44と本来のパフォーマンスを取り戻しつつある。
スケジュール的には大谷も同様の道を辿りそうで、今季は微妙な成績で終わったとしても、オフの長い休みを挟んだ来年以降にエース級に戻るかもしれない。ファンとしても肩の力を抜いて見るのが丁度いいだろう。
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