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日本プロ野球がスタート。わずか2本塁打の藤村富美男が本塁打王に セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1936-37年編~

2021/01/30

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Getty Images, DELTA・道作



1936年秋のNPB

 

 
 この年ついに日本プロ野球にて常設のリーグ戦が開催されることとなった。当時は「職業野球」に限らずプロのスポーツ選手といったものの社会的ステータスは低かった。いつなくなってもおかしくない団体への就職を望むものが少ないことは現在に置き換えても想像できるだろう。しかしこのときの職業野球では望外の優れたメンバーを集められている。日本プロ野球が80年以上も継続できたのは、この最初期から優れたメンバーを揃えられたからなのかもしれない。

 秋季リーグ戦においてランキング首位を獲得したのは阪急の山下好一(阪急)である。リーグ1位の出塁率.459を記録するなど、特に出塁面で優れた成績を残した。同じ阪急、同じ慶應義塾大学出身、同じ山下姓の山下実が本塁打王を獲得しての3位。巨人・大阪・阪急の3チームは選手獲得能力が図抜けていたようで、勝敗や得失点差で見ても他球団とかなりの格差が表れている。
 
 2位の中根之(名古屋)は打率.376で首位打者を獲得。史上3人しかいない本塁打0での首位打者である。打率のほかにも、長打率.462、1打席あたりの得点貢献を表すwOBA(※3)で.407を記録しリーグをリードしたが、チームの試合数の少なさもあり、打席数が伸びずwRAAは2位に留まった。
 
 大阪からは藤井勇、小川年安、小島利男がランクイン。景浦將や松木謙治郎あたりの方が馴染みのある名前かもしれないが、彼らが打者として活躍するのは翌年以降で、まだランキングに入っていない。大阪は初年度からレギュラーのほとんどが他球団を圧倒する打撃能力を見せた。
 
 ベスト10圏外の注目選手では、大阪の藤村富美男を取り上げる。藤村は山下実・古谷倉之助と並ぶ2本塁打を放ち本塁打王となったが、規定打席には到達していない。一方で投手として規定投球回には到達している。古谷は投打ともに規定に到達した。「本塁打0での首位打者」、「規定未到達での本塁打王」、「二刀流の本塁打王」というNPB史上でもレアな3つの記録が初年度に同時に出現していたことになる。この年は各球団シーズン30試合前後の開催。試合数が少なければ少ないほど、変わった記録の発生する余地は大きい。
 
 ほかには創生期のレジェンド・景浦に注目したい。打撃では、規定打席に到達してランキング14位という結果だったが、投手としても規定投球回に達し、最優秀防御率を獲得。NPB第1号の最優秀防御率投手も二刀流であった。投手と野手が明確に分かれていたわけではない事情を象徴する結果である。
 
 リーグ全体の成績を見ると、出塁率が長打率より4分も高いという現代では考えられない逆転現象がみられている。昨今の常識とは異なる野球が展開されていた様子がうかがえる。
 

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