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改定箇所すら把握できていなかった――曖昧な表現が多い、野球協定【事務局長・松原徹氏に聞く、日本プロ野球選手会の実態5】

2004年の球界再編問題の時に、日本のプロ野球選手会の存在を知った野球ファンの方は多くいるのではないだろうか。今回、ノンフィクションライターの田崎健太氏がプロ野球選手会事務局長の松原徹氏へ選手会、そして野球界の抱える様々な問題について取材を行った。5回目は、野茂や伊良部の時に改めてクローズアップされた野球協約の課題点を掘り下げる。

2015/05/24

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野球協約は2004年から選手に配布

 こうした“改変”は日米選手間契約の関する協定に限らない。野球界の憲法といえる、野球協約もしばしば細部が変えられている。
 その改変はやはり選手会に対して相談なしで行われる。
 
 選手会事務局の松原徹は嘆息して、こう言った。
「野球協約の性質を考えれば、改変する場合は選手会に許可を取らないとならないでしょう。もちろん選手の契約の根幹に関わる部分は大幅に変えてくることはないです。ただ、念のため改訂版が出ると、我々は“間違い探し“をしています」
 
 選手、そして選手会は、そうした球団側の対応に対して、憤るべきではないのか――。
 すると、彼から驚くべき言葉が出てきた。
 
「野球協約を選手に配るようになったのは2004年のことなんです。それまでほとんどの選手は野球協約を見たこともなかったかもしれません」
 
 2004年は、大阪近鉄バファローズの消滅に伴う10球団制(1リーグ制)への移行の動きが起こり、それに対して選手会がストライキを準備した年である。
 
「それまで、NPB側に選手がステークホルダーであるという意識がなかったという象徴だと思います。もちろん、それまでも我々、選手会は野球協約を読み込み、選手にとって重要な部分や問題点、改善点については資料配布をしていました。また個別に相談にも乗ってきましたが」
 
 野球協約は、選手側への罰則が“充実”しているのも特徴だ。
 
 例えば、第60条の処分選手と記載名簿――。
〈(1)出場停止選手と出場停止選手名簿(サスペンデッド・リスト)
 球団、あるいはコミッショナー、又はその両者はその球団の支配下選手に対し、不品行、野球規則及びセントラル野球連盟、パシフィック野球連盟それぞれのアグリーメント違反を理由として、適当な金額の罰金、又は適当な期間の出場停止、若しくはその双方を科することができる〉
 
 とされている。“適当な金額の罰金”という表現は、曖昧で、球団有利に拡大解釈することが可能だ。しかし、球団側に対する罰則規定はほとんどない。あくまで経営者有利の内容なのだ。
 
 選手会は2004年から野球協約をホームページで公開。以降、“改変”の歴史を可視化できるようになった。
 
 これは松原は選手会としての自衛手段と考えている。
 
「敢えて球団側に悪意があると思いたくないのですが、それまでは何年にどんな改定が行われたのか、後から検証できないようになっていた。一番の問題は、球団側の人間が、野球協約がどのような経緯で改定されたのか、理解していないこと。プロ野球の球団幹部というのは、ほとんどが親会社、本社から派遣されてきた人です。彼らは野球のプロではない。その人たちが場当たり的に野球協約を変えてきた歴史もあるんです。野球協約を読んでもらえればわかるんですが、文体ひとつとっても一貫性がない。そのときの法規部長によって文体が違うのです」
 
 日本人は契約に関して、曖昧である。口約束、以心伝心――こうした日本の風習はビジネスの世界にも深く影響を与えている。プロ野球選手という多額の金が動く世界でさえ、曖昧だったのだ。
 
戦うのではない。ファンのため、選手のために交渉する【事務局長・松原徹氏に聞く、日本プロ野球選手会の実態6】
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日本プロ野球選手会事務局長
松原徹(まつばら・とおる)
1957年5月、川崎市生まれ。1981年に神奈川大からロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテ・マリーンズ)に球団職員として入団。一軍マネージャーなどを務めた後、1988年12月に選手会事務局へ。2000年4月から事務局長。2004年のプロ野球再編問題では、当時のプロ野球選手会の会長であった古田敦也らとともに日本野球機構側と交渉を行った。

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