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改定箇所すら把握できていなかった――曖昧な表現が多い、野球協定【事務局長・松原徹氏に聞く、日本プロ野球選手会の実態5】

2004年の球界再編問題の時に、日本のプロ野球選手会の存在を知った野球ファンの方は多くいるのではないだろうか。今回、ノンフィクションライターの田崎健太氏がプロ野球選手会事務局長の松原徹氏へ選手会、そして野球界の抱える様々な問題について取材を行った。5回目は、野茂や伊良部の時に改めてクローズアップされた野球協約の課題点を掘り下げる。

2015/05/24

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曖昧だった協定

 この連載の3回目で書いたように、筆者が「選手会」そして「野球協約」について詳しく調べるようになったのは、『球童 伊良部秀輝伝』(講談社)を取材しているときのことだった。
 現在に続く、日本のプロ野球選手のメジャーリーグ移籍の嚆矢となったのは、野茂英雄だった。

 95年2月、近鉄バファローズに所属していた野茂英雄は「任意引退」となり、ロサンゼルス・ドジャースと契約を結んだ。
 
 任意引退選手については説明が必要だろう。
 任意引退とは自ら引退を宣言した選手を指す。日本のプロ野球選手は「野球協約」を元にして、球団と「統一契約書」を結んでいる。
 野球協約には契約の様々な条件についての説明が書かれている。この野球協約には、「任意引退選手」となった選手の国外への移籍について記述がなかった。
 
 日本とアメリカの選手の移籍については、プロ野球機構とメジャーリーグ機構の事務局が67年10月に『日米選手契約に関する協定』という紳士協定を結んでいる。
 この協定には、日本の球団はアメリカのメジャーリーグに所属している選手はもちろん、任意引退選手についてもアメリカの球団と事務局の承認がなければ交渉できないとはっきり書かれている。一方、日本の選手についての規定は曖昧だった。
 プロ野球球団と契約している選手、保留名簿に掲載されている選手、「インアクティブ」(非現役)リストに入っている選手については同様に球団と事務局の承認が必要だとは書かれてあるのみ。しかし、野球協約には、「インアクティブ」リストと呼ばれるものは存在しない。
 
 そこで野茂英雄の代理人だった、団野村はプロ野球機構とメジャーリーグ機構の両事務局に、“日本で任意引退選手となった選手はアメリカではフリーエージェント扱いになるのか”と確認している。そして、野茂は近鉄から任意引退選手となり、メジャー球団と契約することができたのだ。
 
 千葉ロッテマリーンズの伊良部がアメリカへの移籍を希望して動き出したのは、野茂がアメリカに渡った翌年、96年夏のことだった。
 このとき、日米間選手契約に関する協定に「但し書き」が加えられていた。
 
 前述のように協定の中には、国外の球団が当該球団及び日本のコミッショナーの承認がなければ、〈インアクティブ〉リストに入った選手と接触、交渉してはならないと規定してある。
 ここに〈任意引退選手や有期、無期の失格選手のことを意味している〉と但し書きがついていた。
 
 この但し書きは日本語のみである。
 
 本来、契約書とは当事者に対して、権利を認める代わりに、義務を与えるものだ。メジャーリーグ、そして選手の代表である選手会に対して、こうした重要な契約に「但し書き」をつける場合は、確認、承認が必要だろう。しかし、プロ野球機構は、そうした契約当事者に対して無断で但し書きをつけていた――。

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