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「谷元ロス」で考える、クセモノ型選手絶滅の危機【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#57】

谷元圭介の中日移籍にともなう「谷元ロス」の状態が続いている。若手がしっかりと台頭してくる一方で、ベテランが次々にファイターズを卒業する中、チーム内に職人的プレーヤーの存在が減っているようにも感じられる。

2017/08/13

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ファイターズの方針で欠落する選手のタイプ

 クセモノ型選手はいわゆるスポーツ的な修辞とは縁遠い。「悔いを残さないように」「思いきり腕を振って」「一球にすべての思いを込めて」投じられたような球を「チームメイトの頑張りを思ってどうしても打ちたいと思い」「これまで支えてくれたすべての人に感謝しながら」「「ファンの皆さんの後押しのおかげで」打つというニュアンスの力学からはちょっと外れている。何かちょっと文脈が違うのだ。例えばトリックプレーを仕掛けるとき「ファンの皆さんの後押しのおかげで、2塁ベース上でボンヤリして見せ、偽装アウトを取りました」ってちょっと変だ。「これまで支えてくれたすべての人に感謝しながら、隠し球でアウトを取りました」ってギャグになってしまう。
 
 山口瞳が53年前に嘆いているくらいだから、このタイプはプロ野球の絶滅危惧種なのだろう。絶滅危惧種ながら細々と命脈をたもってきたような。技術に誇りを持ち、その一芸で金を取るような選手。自分を曲げない頑固さを持った選手。僕が見てきたこのタイプ選手で、いちばんスケールが大きい(したがって「職人」の枠から出てしまう)のは落合博満じゃないかと思う。試合の勝ち負けより落合を見てるほうが面白かった。が、それはいくら何でも大物すぎるとしたら……。
 
 ファイターズでパッと浮かぶのは広瀬哲朗だ。90年代ゴールデングラブ賞の名遊撃手。広瀬はひとを食った選手だった。凡ゴロをさばいても、打者走者の様子を見てなかなか投げないのだ。ボールを遊ばせている。あきらめて流してた打者走者が、あれっ、これはもしかするとセーフになるかと思って、途中からダッシュする。と、強肩にモノを言わせて間一髪の送球でアウトにするのだ。野球の基本からいったら大間違いだと思う。すんなりアウトを取らないと何があるかわからない。が、面白いのだ。広瀬は看板プレーの「ヘッドスライディング」をはじめ、魅せるプレーを心がけた。「ファンの皆さんの後押しのおかげで、送球を送らせてぎりぎりアウトを取りました」はやっぱり成立しない。「すぐ送球しろよ」と怒られそうだ。
 
 ファイターズの育成路線(高年俸の主力選手はじゃんじゃん「卒業」させ、若手に切り替える)で、もしかするといちばん欠落するのが、このクセモノ型かもしれないなと思う。どうしても構成的に若さのカルチャーになるだろう。あるいは飯山裕志のような「ベテランだけどひたむき」という世界か。そこまで考えて、また胸の奥がチクッと痛んだ。「谷元ロス」からまだ立ち直れないでいる。思いを巡らすうち、ついそこに戻ってしまう。
 
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