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「谷元ロス」で考える、クセモノ型選手絶滅の危機【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#57】

谷元圭介の中日移籍にともなう「谷元ロス」の状態が続いている。若手がしっかりと台頭してくる一方で、ベテランが次々にファイターズを卒業する中、チーム内に職人的プレーヤーの存在が減っているようにも感じられる。

2017/08/13

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ここで谷元が登板する場面なのに……

 旅先である。新潟県の新津温泉という「石油の匂いのすることで有名な温泉」に立ち寄ってきた。昔、新潟は石油を掘っていて、その名残りなんだそうだ。塩分の高いトロトロの湯質だった。愉快なことにシャワーがなくて、肌にに石油の匂いがかすかに残っている。
 
 旅の友は『昭和プロ野球徹底観戦記』(山口瞳・著、河出書房新社)だった。青春18きっぷで鈍行に揺られながら、のんびり本を読んできた。昭和の人気作家、山口瞳の野球エッセイ集成だ。山口瞳の文章は昔から大好きだが、モノが野球だと格別だ。
 
 僕は谷元圭介の中日移籍にともなう、いわゆる「谷元ロス」の状態が続いていて、ちょっと気分を変える必要があった。試合を見ていて、「あぁ、ここは本来、谷元が登板する場面だったなぁ」なんて思うとたまらない。代わりに頑張ってる田中豊樹や石川直也には申し訳ないのだが、じんわり泣けてくるのだ。
 
 傷心の自分には緑豊かな車窓の風景や、石油くさい温泉や、山口瞳の滋味あふれる文章が「心の夏休み」だった。ちょっと一節、引用させていただく。
 
「私は鈴木武という選手が好きである。彼の野球が好きである。鈴木武より足の速い遊撃手はいる(たとえば、河野、木塚)。打率のいい勝負づよい選手がいる(豊田、レインズ)。守備範囲の広い選手がいる(広岡)。
 
 しかし、私には鈴木武の野球がいちばんおもしろい。近鉄時代、昭和二十九年に彼は71盗塁で盗塁王になった。これは年間最多盗塁の第4位である。しかし、彼には、盗塁して2塁でアウトになると思ったら、くるっとうしろをむいてスタコラ1塁へもどってセーフになるという妙技があった。そのくらい足がはやくカンがよかった。
 
 なぜ、私がことさらに鈴木武の名をあげて”おもしろい野球”を強調するかというと、この数年、野球は「野球」でなくなって「勝負」になってしまったからだ。(えのきど中略)私が高いお金をだして、残り少ない人生のとぼしい時間をさいて球場へ出かけるのは野球がみたいからである。勝負がみたいならTVのスポーツ・ニュースを見ればよい」(「野球がみたい」、『昭和プロ野球徹底観戦記』より)
 
 鈴木武は兵庫県出身の遊撃手だった。1953~60年近鉄、60~63年大洋。実働11年、1131試合出場、生涯打率は.243という渋い選手だ。外野を割られた場面で「2塁ベース上にわざとボンヤリ突ったって、走者の速度をゆるめスライディングを怠らせてタッチするプレイも鈴木武に多かった」とも書かれてるから、いわゆる玄人好みのする職人プレーヤーではないか。
 
 あぁ、確かに職人気質のクセモノっぽい選手は減ってしまったなぁと思う。今はアスリートタイプが増えた。(球団のメディア対策もあって)コメントひとつ取っても、真面目で無難なことしか言わない。しかし、エッセイ「野球がみたい」の初出は『漫画讀本』(64年1月)だから、半世紀以上前に山口瞳は「野球が『野球』でなくなった」と指摘していることになる。面白いなぁ。

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shiro