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「形マニアになるな!」京都国際・小牧憲継監督が実践する守備指導の極意。「状況判断ができる選手が試合に出ている」【インタビュー】

2025/08/13 NEW

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komakinoritsugu

全国高校野球選手権大会・昨夏の王者! 夏連覇に挑む京都国際!
2024年夏の甲子園で、堅守を武器に初の日本一を成し遂げた京都国際。3月に発売された『高校野球界の監督がここまで明かす! 守備技術の極意』(大利実・著)より、小牧憲継監督に個の育成・内野手の指導法に関して、存分に語ってもらった頁を一部抜粋で公開する。(文・大利実)

 

 

守備の最大の目的は「アウトを取ること」

 
── 内野守備の指導を掘り下げていきたいのですが、「形」はどこまで教えていますか。
 
小牧 以前は1から10まで細かく教えて、全員に同じような捕り方を求めていました。わかりやすく言えば、「教え魔」。
でも、ある時期に、「これでは〝形マニア〟になりすぎてしまう」と気付いて、今は教えすぎないようにしています。
形にこだわりすぎると、どうしてもボールに入っていけない選手が出てくる。
素晴らしくキレイな形で捕ったとしても、結果的にセーフであれば、いいプレーにはならないわけです。
メジャーリーグの中継を当たり前に見られる環境になってから、考えが変わりました。
日本と比べると、守備に対する根本的な考え方が違いますよね。
 

 
── 形を意識しすぎると、前にチャージができないと。
 
小牧 そういうことです。結局、守備で一番大事なのは、「アウトを取ること」。最大の目的はそこです。
当たり前のことですけど、それを忘れてはいけないのかなと思います。
もしジャンピングスローであればアウトを取れたのに、正面に入って股を割ったことでセーフになるのであれば、それこそ「怠慢プレー」だと思っています。
 
── たとえば、三塁線の打球に対して、必ずしも体を入れる必要はないですか。
 
小牧 正面に入ることも、逆シングルで捕ることも、両方練習します。
それこそ、後ろに逸らしたらサヨナラ負けの場面であれば、体を入れて前に落とすことも必要。
だからこそ、練習でプレーの引き出しをいっぱい作っておかなければいけません。状況に応じて、どのプレーを選択するのか。
「状況判断ができる選手がレギュラーとして試合に出ている。ノックでもボール回しでも、もっといい入り方はなかったか。もっといい捕球位置はなかったかと考えてほしい」という話をよくしています。
最終的には、無責任な言い方かもしれませんが、自分に合った入り方や捕り方を見つけてほしい。
 
── 昨夏のショート藤本陽毅選手(中央大)や、2020年に日本ハムに入団した上野響平選手(元オリックス)は、アクロバティックなプレーが目立っていました。
 
小牧 アウトを取るための最善のプレーは何か、ということです。でも、上野にはこんな話をしたことがあります。
プロ志望だったこともあって、ジャンピングスローなどの派手なプレーをバンバンやって、守備でアピールしようとする意識を強く持っていました。
その分、雑にプレーしてエラーをすることもあり、「そうやって逆シングルやランニングスローで勝負をかけるときほど、丁寧にプレーしないとピッチャーが納得せんよ」と。
グラブの先の先まで意識を持って、丁寧に繊細にプレーする。それを理解できてから、しょうもないエラーは格段に減りました。
 
── 「アウトを取るために、雑にプレーしてもいい」というわけではないと。
 
小牧 そういうことです。こういうプレーも、自分の中でイメージを描けていないとできないものです。
以前は、夜の自主練習時に真っ暗の中で架空の打球をイメージして、難しい打球をジャンピングスローでアウトにする「守備シャドウ」を入れていました。
自分がやりたいプレーに、イメージと動きをマッチさせていく。
ボールがあると、それに合わせたり、恐怖心が生まれたりするので、「シャドウ」はいい練習だったと思います。
壁当てができなくなったので、もう1回、それを入れてもいいかもしれません。
 
── ゴロ捕球に関して、花咲徳栄高の岩井隆監督が、「主体は自分ではなく、ボールなんだ」と言っていて、ものすごく腑に落ちました。
 
小牧 わかります。だからこそ、自分(守備者)に主導権がないと、打球に合わせてしまって、差し込まれてしまうと思います。
 
── 主導権を持つためにはどうしたらいいですか。
 
小牧 自分からボールを捕まえにいく姿勢がないとダメですよね。
「形マニア」になると、その姿勢が消えてしまうのかなと。決して、形を軽視しているわけではないんですけど。
 
── そうなると、1対1でのゴロ捕球などはあまりやらないですか。
 
小牧 ほとんどやらなくなりましたね。それはチームの事情もあります。
少しずつ結果が出るようになってから、入学してくる選手の能力が上がり、甲子園を狙えるようになり、そうなると試合で勝つために実戦的な練習がどうしても増えていく。
勝つことで、公式戦の期間も長くなります。
 
── それは、技術向上にとってプラスだと捉えていますか。
 
小牧 難しいところですね。数年先までは良くても、5年後、10年後にどうなっているかは何ともわかりません。
 
 
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書籍情報


『高校野球界の監督がここまで明かす! 守備技術の極意』
大利実 著 定価:1980円(本体1800円+税)
 
全ポジションの指導を網羅
新基準バット対応マル秘上達メソッド
 
守備を制するものが高校野球を制す――。
2024年春の公式戦から、「新基準バット」が本格的に導入された高校野球。
「新基準バットになったことで、守りの重要性がこれまで以上に高くなっている」
多くの指導者が口にしている言葉だ。
そこで、2018年から続く「技術の極意シリーズ」の第5弾として選んだテーマは、「守備技術」である。

 
【了】



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