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“第2のモイネロ”を探して――。ソフトバンク・中南米スカウトが語るキューバ人選手を狙う理由「亡命リスクがあっても…」

2025/06/06

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産経新聞社



(左から)ソフトバンク、リバン・モイネロ、ホセ・オスーナ

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 選手経験なし、球団通訳を経てドミニカ共和国に渡りスカウトに転身し、リバン・モイネロ、ロベルト・スアレス(現:サンディエゴ・パドレス)などを発掘した福岡ソフトバンクホークス中南米担当スカウトの萩原健太氏。同職に就任して11年目、NPBでも唯一無二といってもいい活動を続ける萩原スカウトに、今年も話を伺うことができた。(取材・文:高橋康光)

中南米スカウトの活動は「ものすごい移動距離なんですよ(笑)」

 
 2024年度の活動も、例年と同じくドミニカ共和国のアカデミーを回りながら選手の視察やトライアウトを行い、同時並行でメキシカンリーグ、キューバリーグ、ウインターリーグ、そしてアンダーカテゴリーなどの国際大会のチェックに行くという大まかな流れでした。
 
 言葉では簡単に聞こえるでしょうが、ものすごい移動距離なんですよ(笑)。メキシコなんかは国内で時差もあったりしますし、新幹線のような快適な乗り物で移動できるわけでもありませんしね。本当に体力勝負です。
 

 
 そんな中で、2024年度は新たに選手を獲得することはありませんでした。ここ2,3年である程度の数の選手を獲得していたこと、特別に獲得したいと思う選手がいなかったということが大きな理由です。
 
 現在、私が獲得した選手はモイネロの他に下記の育成選手が在籍しています。
 
アレクサンダー・アルメンタ(投手・20歳・メキシコ出身)
ダリオ・サルディ(投手・19歳・キューバ出身)
デービッド・アルモンテ(内野手・17歳・ドミニカ共和国出身)
マルコ・シモン(外野手・20歳・ドミニカ共和国出身)
ホセ・オスーナ(外野手・18歳・ドミニカ共和国出身)
ルイス・ロドリゲス(投手・23歳・ドミニカ共和国)
 
 残念ながら、フランケリー・ヘラルディーノ(内野手・ドミニカ共和国出身)、マイロン・フェリックス(投手・ドミニカ共和国出身)の両選手はそれぞれ一昨年、昨年に自由契約となってしまいました。
 
 フェリックスは今季、テキサス・レンジャースの傘下でプレーしています。ホークスを離れたとはいえ、自分が獲得した選手の動向はやはり気になるものです。日本ではチャンスがありませんでしたが、ポテンシャルはあるのでアメリカでチャンスを掴んでもらいたいです。現状ホークスの5つの外国人枠は埋まっていますが、6選手ともポテンシャルは非常に高いので、腐らずに支配下登録のチャンスを掴んで欲しいと思っています。
 
 選手の獲得に至らなかったと言いましたが、実は注目していた選手が2人いました。
 

注目していた2人の”キューバ人選手”

 
 2人ともキューバ人選手で、1人は昨年の8月にパナマで開催されたU-18のパンアメリカン大会に当時15歳で代表に選出されていたクリスティアン・レゴという右腕です。しかし、この大会の2,3カ月後には亡命してしまいました。もう1人がアレハンドロ・クルスという17歳の内野手でしたが、彼も亡命し、今年の1月にシカゴ・ホワイトソックスと200万ドルで契約をしています。
 
 私は両選手とも接触していましたし、その両親とも接触していました。ただ、キューバは規定上18歳まで海外に移籍できないので、待ちきれない子は亡命してしまうのです。ビザ取得の関係上18歳未満の選手の場合、一家そろっての亡命が一般的なようですね。前の年に獲得できたサルディのケースは粘り強く交渉し続け、またサルディ自身もモイネロに強い憧れを持っていたこともあり、18歳まで待ち続けてくれました。
 

 
 亡命というリスクがあっても、私がキューバ人選手の獲得を続けるのは、同じラテン系選手の中でもハングリー精神の強さが全く違うからです。実際に、育成上がりの外国人選手で大成功したといえるのはモイネロとライデル・マルティネス(読売ジャイアンツ)の2人のキューバ人選手くらいではないでしょうか。
 
 イチローさんがアメリカ球界の殿堂入りの会見で、自分がMLBに挑戦してから25年が経ったのに日本人選手の数がまだまだ少ないと語られていましたが、なるほどなと思いました。それは、私の世界でも同じ感覚です。
  

「中南米担当スカウトになって10年以上が経ちましたが…」

 
 私がホークスの中南米担当スカウトになって10年以上が経ちましたが、いまだにNPB球団で日本人スカウトを中南米に専属で置いているのはホークスだけです。今や日本球界の外国人選手もアメリカ人選手よりも、中南米選手出身の方が多い時代です。各球団もスペイン語通訳やスタッフは増えているようですが、中南米スカウトという部分に関してはそうではないようですね。
 
 私もそれなりの結果を残してきたという自負はあるので、あとに続く人材が出てきてもらいたいという気持ちがあります。例えば、昨年9月の末にはキューバ野球連盟がトライアウトを開催しましたが、参加したのはイタリアから1チーム、ベネズエラのウインターリーグから1チーム、そしてホークスの計3チームでした。キューバ球界に魅力を感じていないチームも多いのでしょうが、あまりに寂しいですね。まあ逆に言えば、どんな時も顔を出すホークスへの信頼感はそれだけ深くなるわけなので、マイナスとは捉えてはいませんが。
 
 MLBの各球団は、毎年アマチュアのラテン選手を何十人も獲得するほどの多額の先行投資をしています。しかし、それだけ多くの選手を獲得してもメジャーリーグに上がれるのは2%〜5%位しかいません。そして、その中から1人でもメジャーで活躍する選手が出たら成功したと言われるくらいなので、それだけスカウティング、育成は難しい世界なんです。私の活動はそんなMLB球団が競合相手となるわけで、数人でチームを組んでいる彼らに対して私は1人です。それでも負けるわけにはいかないという気持ちです。
 
 いずれにしても、私の活動の結果次第でNPBの中南米への視座が変わると思うとやはり身が締まる思いです。今年も、逸材を探して中南米を飛び回ります。

 

 
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【了】



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