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広島・野村謙二郎がトリプル3を達成 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1995年編~

2020/10/12

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Getty Images, DELTA・道作

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 本企画はNPB過去年度の打撃ベスト10を眺め、往事の野球を今の視点から振り返り楽しんでもらおうというものだ。ただベスト10は従来の打率ではなく、セイバーメトリクスにおける総合打撃指標wRAA(※1)を採用する。これはリーグ平均レベルの打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標だ。この視点で振り返ることで、実は過小評価されていた打者がわかるということもあるかもしれない。
 

 

 この年は阪神淡路大震災の年である。当時は戦後最大の災害であったし、これほどの災害を存命中に再び見ることはあるまいと何の根拠もなく想像していた。なお、地下鉄サリン事件もこの年の3月であった。球界にも同様に大事件が発生。野茂英雄のメジャー流出である。登板日には早朝・深夜に関わらず固唾をのんで見守った覚えのある方が多いのではないだろうか。

1995年のパ・リーグ

チーム   試合 勝率 得点 失点 得失点
オリックス 130 .636 571 428  143
ロッテ   130 .543 481 461  20
西武    130 .540 498 427  71
日本ハム  130 .465 477 503  -26
ダイエー  130 .429 492 580  -88
近鉄    130 .386 457 577  -120
 

 
 前年に引き続きwRAAランキング1位はイチロー(オリックス)となった。この年のイチローは前年から長打面で成績を伸ばし、wRAA、wOBA(※3)、出塁率、打率、打点でリーグをリードした。ほかにも長打率はトップの小久保裕紀(ダイエー)に4厘差の2位、本塁打もトップ小久保に3本差の2位と、ほぼ完ぺきなスタッツを残した。イチローはまた49盗塁、9盗塁刺と高い成功率で盗塁王も獲得しており、シーズン途中では盗塁王と三冠王をともに受賞する可能性まで期待されたほどである。
 
 オリックスはイチローの活躍により、リーグ最多571得点を記録し、82勝を挙げて優勝を勝ち取ることになる。ペナントを西武以外の球団が獲得するのは6年ぶりのことであるが、西武の勝利数は前年・前々年ともに80勝を切っていた。来るべき時が来たという印象だ。
 
 また、過去5年間265勝372敗で4位すら9年前まで遡るロッテが、この年唐突に2位に浮上。攻撃面ではベスト10に3人を送り込んだが、これは1979年に4人送り込んで以来、チーム16年ぶりの出来事であった。いかに戦力が薄い状況が長く続いていたかがわかるだろう。このうち3位にランクインした初芝清(ロッテ)は80打点で打点王を獲得。打点王はイチロー、初芝と田中幸雄が3人並んでの受賞となったが、この3人は打点だけでなく、本塁打も25本で並んでいる。
 
 イチローに次ぐwRAA36.1をマークしたのは小久保だった。この年から二塁の定位置を確保したが、2リーグ制以降では、1982年落合博満(当時ロッテ)以来2人目の二塁を守っての本塁打王である。小久保は三塁打も最多の9本だったことも寄与して、.548で最高長打率も獲得している。なお、30本に満たない本塁打王は1961年以来44年ぶりのことである。
 
 ベスト10圏外での注目選手では日本ハムのブリトー。この年は235打席214打数で21本塁打。およそ10打数に1本のペースで本塁打を放った。これは本塁打王となった小久保の1.6倍以上のペースとなる。規定打席には到達していないが、1打席あたりの得点貢献を示すwOBA(※3)はイチローを、長打率は.636と小久保を9分近く上回っている。フル出場組の半分にも満たない打席にもかかわらず、積み上げたwRAAの21.3はベスト10に入るレベルの数字であった。
 
 このシーズンはまれに見る貧打の年である。リーグ本塁打は624本。パ・リーグでこれよりも本塁打が少なかったシーズンは1962年と、何と33年遡ることになる。得点も2976と、1976年以来19年ぶりの少なさであった。

1995年のセ・リーグ

チーム  試合 勝率 得点 失点 得失点
ヤクルト 130 .631 601 495  106
広島   131 .569 635 510  125
読売   131 .554 527 494  33
横浜   130 .508 562 588  -26
中日   130 .385 498 651  -153
阪神   130 .354 451 536  -85
 

 
 前年の負傷から古田敦也(ヤクルト)が復帰。これに伴いヤクルトの成績が回復し、82勝を挙げて優勝した。
 
 順調にリーグ内での地位を上げていた江藤智(広島)が初のwRAA1位となった。39本塁打、106打点で本塁打・打点王を獲得したばかりではなく、長打率.608もリーグ1位。二塁打も多かったため、70本の長打を記録した。この長打数は、セ・リーグでは1987年のポンセ以来のことである。これで江藤の本塁打王は2度目で、長打のスペシャリストとしての地位を築いた年となった。2位のトーマス・オマリー(ヤクルト)は出塁率.429で最高出塁率を獲得してのランクイン。本塁打も前年から倍増させる31本を放ち、MVPを獲得した。
 
 3位野村謙二郎(広島)は32本塁打を記録してのランクインとなった。この年、30を超える本塁打を放った野村だが、キャリアを見渡すと10本台のシーズンが多く、20本台を記録することはなかった。この年は最多安打(3回目)、最多塁打、最多得点(2回目)を獲得。トリプル3も記録するなど、キャリア最高のスタッツを残した。4位のアロンゾ・パウエル(中日)は.355で首位打者を獲得。29試合に欠場したためにwRAAは4位に留まったが長打もよく出ており、wOBAはリーグ首位を記録した。前年ベスト10圏外の注目選手として取り上げた金本知憲(広島)は順調にベスト10入り。多くの優秀な打者を抱えた広島は前年に続きこの年もリーグ最多得点を記録した。
 
 ベスト10圏外での注目選手は広島の緒方孝市。後年広島の監督として優勝を経験するが、この年は選手として初めて他球団のファンにも脅威として認識されたシーズンである。規定打席未到達ながらwOBAは5位相当。さらにこれだけの打力を持ちながら盗塁王を獲得している。
 
 この年は90年代以後を代表する選手が多く見られる。また、この後に歴史的な傑出の選手が立て続けに登場。選手の才能的には日本野球の歴史上最大の黄金期を迎えていたと考える。間違った練習を最初からやっていない世代がプロ入りする年齢になってきたのだ。メジャー挑戦が野茂で途切れず、続いたのには理由がある。しかし近年では、最高の才能を発揮し続ける選手を、NPBの球団が果たして何年雇い続けられるのかという新たな問題も発生している。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 
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