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レギュラー定着の福本が75盗塁を記録 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1970年編~

2020/07/24

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Getty Images, DELTA・道作

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 本企画はNPB過去年度の打撃ベスト10を眺め、往事の野球を今の視点から振り返り楽しんでもらおうというものだ。ただベスト10は従来の打率ではなく、セイバーメトリクスにおける総合打撃指標wRAA(※1)を採用する。これはリーグ平均レベルの打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標だ。この視点で振り返ることで、実は過小評価されていた打者がわかるということもあるかもしれない。
 

1970年のパ・リーグ

チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
ロッテ 130 .630 599 472  127
南海  130 .548 589 510  79
近鉄  130 .524 424 442  -18
阪急  130 .500 560 511  49
東映  130 .435 521 599  -78
西鉄  130 .355 417 576  -159
 

 
 この年は非常に興味深いシーズンである。得点の多い・少ないについては、年代で増減のトレンドがあるが、たいがいは両リーグで傾向が一致するものである。2011-12年の違反球時代や1949-50年のラビットボール時代についてもそうだ。それに対し、この年は両リーグで志向が大きく異なっている。
 
 パ・リーグでは、リーグ全体で飛びやすいボールを使用していた形跡があり、過去数年の傾向よりもかなり多くの得点が記録されるシーズンであった。リーグで初めて全球団が100本塁打以上を記録した。このことはパワー系の打者が多いロッテ打線の長打力をさらに押し上げ、優勝を後押しした可能性がある。
 
 リーグ最多のwRAAをマークしたのは張本勲(東映)である。打率では1951年の大下弘(当時東急)を上回る.383の国内新記録をマークしたが、大下の約1.4倍の試合に出場してのことなので、レア度はより高い。本塁打も34本とリーグ屈指のものであったためwRAAは67.0に達し、チーム数の多さゆえにレベルの低かった時代の数字まで上回るリーグ新記録となった。
 
 張本はさらに出塁率は.467で2位に7分近い差をつけての首位。1打席あたりの得点貢献の質を表すwOBA(※3)はリーグ歴代最多5度目の1位獲得。張本のキャリアを振り返る際、このシーズンの成績を見れば歴史的な強打者であることを再確認できる。2位には同じ東映の大杉勝男。こちらは44本塁打129打点で二冠王を獲得。出塁率も.399と高かった。wRAA57.7は、張本がこれほど好調ではない通常のシーズンであれば1位が確実だったであろう数字だ。
 
 このように飛びやすいボールを使用していたことから、3位野村克也(南海)以下についてもパワー系打者の躍進が目立つ。クラレンス・ジョーンズ(南海)のような四球と長打に特化した過去にはないタイプの打者も活躍した。こういった環境もあり、スピードタイプの打者はほぼ排除されたようなランキングになっている。
 
 そんな中、この年は2選手の走塁に注目が集まっていた。1人はベスト10圏外に記載した福本豊(阪急)だ。このシーズンから本格稼働となった福本は75盗塁、15盗塁刺というインパクトのある数字をマークして注目を集め、2年後には当時世界記録の106盗塁にまで達することになる。塁上では別次元の脅威であった。
 
 もう1人は代走専門として1968年末、ドラフトされた陸上五輪代表の飯島秀雄(ロッテ)である。話題作りとして面白いと考えていたが、1969年から1971年までの3年間で23盗塁・17盗塁刺と走者としてさして大きな成功を収めたとは言えない。
 
 注目したいのは飯島を塁上において打席に入った打者の打撃成績である。151打数64安打8本塁打20四球で打率.424である。ちなみに本塁打は走者なし時の2倍近いペースで出ている。たしかに無死または1死走者ありの状況で打者の成績が上がることは知られている。特に1死三塁といったケースでは、前進守備がとられやすいこともあってか、打率にして4割を超える。
 
 ただし、その他のケースでは上がり方も小さく、逆に走者がいることで打撃成績を悪化させてしまうケースまである。また、上記の好成績の理由が、飯島が三塁走者としての状況ばかりだったからというのも考えがたい。三塁に進んだあとでわざわざ代走起用というのはレアケースだし、1死三塁のケースはそもそも出現頻度も低い。三塁走者としての起用が集中したとも伝えられていない。通常であれば多少打撃成績が上がる程度が関の山のところだ。
 
 このような数字が残ったのは走者・飯島を、必要以上に警戒してしまった結果ではないだろうか。打者への投球を弱めるほどによそ者(陸上選手)に野球で活躍してほしくないという排他的な考えが高じて、警戒具合が本来の目的である勝敗に悪影響を与えるほどになってしまった可能性は考えられる。同時代選手の著書においても飯島のプロ入りはあまり好意的に描写されていなかった記憶がある。確かにサンプルも少ないため、この好成績が単なる偶然である場合もありうる。しかし統計学で使われる信頼区間の公式から考えると、この打率は偶然出現しうる妥当な数字の範囲とは言えないようである。

1970年のセ・リーグ

チーム  試合 勝率 得点 失点  得失点差
読売   130 .627 499 365  134
阪神   130 .611 435 335  100
大洋   130 .548 436 399  37
広島   130 .508 393 421  -28
中日   130 .440 435 462  -27
ヤクルト 130 .264 336 552  -216
 

 
 王貞治(読売)の圧倒的な打棒に悩んだ結果、偶然にも3チームが低反発球を採用。打高のパ・リーグとはまったく異なる流れとなった奇妙な年だ。やはり王が首位で、wRAA85.8と例年通りの圧倒的な利得をもたらしている。得点の単位となっているwRAAを勝利の単位に変換した勝利換算(※2)では10.1と2ケタの数値を記録。ほかの打者が低反発球の影響を受けたにもかかわらず、王はいつもと成績が変わっていない。しかしこれは王がこのシーズン、例年より好調であったため、打低環境にもかかわらず例年と変わらない成績になっていたと私は考えている。実際、翌年にはほかの選手同様にこの環境の影響を受けてか、成績を落としてしまう。
 
 2位と3位にはたまたまこのシーズン絶好調だったらしき2人が入っている。松原誠(大洋)と木俣達彦(中日)だ。その他の選手は多大な影響を被ったようで、上位3人以外にwRAAで20点以上を記録した打者はいない。これはセ・リーグ初の出来事であった。貧打戦慣れした広島勢から3人、阪神勢から2人がランクインしているのも象徴的だ。
 
 球場別の得点の入りやすさを示す指標であるパークファクターの数字を見るに、低反発球を使用したのは広島・阪神・中日と考えられる。しかしこのうち中日は方向性を誤ったと考える。ロースコアを志向しているにもかかわらず、リーグワースト2位の462失点と失点は減らせていない。当時のチームは長打力のある野手が育っていたので、得点を伸ばす環境を作りたかった。充実していた野手陣の活躍を阻害したようにも見える。
 
 これら打低環境で最も影響を受けたと思しき選手が、ベスト10圏外で取り上げたデーブ・ロバーツ(ヤクルト)だ。打率は前年の.318から.238へと8分悪化、本塁打は37本から19本に半減。wRAAで考えると、前年に比べてロバーツ一人で40点ほどの得点を失ったことになる。不調に陥ったと考えて何かを変えようとし、さらに深みへはまってしまった経緯が想像できる。おそらく似通った事情の選手はロバーツ以外にも多くいたのではないだろうか。
 
 翌年は少し改善するものの似たような状況が続いた。こうした状況は当時のベストナイン選考や選手の生き残りに大きな影響を及ぼしたと考えられる。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 
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