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レギュラー定着の福本が75盗塁を記録 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1970年編~

2020/07/24

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Getty Images, DELTA・道作



1970年のセ・リーグ

チーム  試合 勝率 得点 失点  得失点差
読売   130 .627 499 365  134
阪神   130 .611 435 335  100
大洋   130 .548 436 399  37
広島   130 .508 393 421  -28
中日   130 .440 435 462  -27
ヤクルト 130 .264 336 552  -216
 

 
 王貞治(読売)の圧倒的な打棒に悩んだ結果、偶然にも3チームが低反発球を採用。打高のパ・リーグとはまったく異なる流れとなった奇妙な年だ。やはり王が首位で、wRAA85.8と例年通りの圧倒的な利得をもたらしている。得点の単位となっているwRAAを勝利の単位に変換した勝利換算(※2)では10.1と2ケタの数値を記録。ほかの打者が低反発球の影響を受けたにもかかわらず、王はいつもと成績が変わっていない。しかしこれは王がこのシーズン、例年より好調であったため、打低環境にもかかわらず例年と変わらない成績になっていたと私は考えている。実際、翌年にはほかの選手同様にこの環境の影響を受けてか、成績を落としてしまう。

 2位と3位にはたまたまこのシーズン絶好調だったらしき2人が入っている。松原誠(大洋)と木俣達彦(中日)だ。その他の選手は多大な影響を被ったようで、上位3人以外にwRAAで20点以上を記録した打者はいない。これはセ・リーグ初の出来事であった。貧打戦慣れした広島勢から3人、阪神勢から2人がランクインしているのも象徴的だ。
 
 球場別の得点の入りやすさを示す指標であるパークファクターの数字を見るに、低反発球を使用したのは広島・阪神・中日と考えられる。しかしこのうち中日は方向性を誤ったと考える。ロースコアを志向しているにもかかわらず、リーグワースト2位の462失点と失点は減らせていない。当時のチームは長打力のある野手が育っていたので、得点を伸ばす環境を作りたかった。充実していた野手陣の活躍を阻害したようにも見える。
 
 これら打低環境で最も影響を受けたと思しき選手が、ベスト10圏外で取り上げたデーブ・ロバーツ(ヤクルト)だ。打率は前年の.318から.238へと8分悪化、本塁打は37本から19本に半減。wRAAで考えると、前年に比べてロバーツ一人で40点ほどの得点を失ったことになる。不調に陥ったと考えて何かを変えようとし、さらに深みへはまってしまった経緯が想像できる。おそらく似通った事情の選手はロバーツ以外にも多くいたのではないだろうか。
 
 翌年は少し改善するものの似たような状況が続いた。こうした状況は当時のベストナイン選考や選手の生き残りに大きな影響を及ぼしたと考えられる。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 

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