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西武を勝利へ“加速”させるベテラン栗山。「やることは一緒」経験が成す巧みなメンタルコントロール

 パシフィック・リーグで10年ぶり優勝を目指す首位の埼玉西武ライオンズ。福岡ソフトバンクホークスとの天王山で3連勝したことで、それが大きく近づいた。打線を引っ張ったのは35歳の栗山巧外野手だ。17年目のベテランが見せた冷静な背中には、一体どんなメンタルに裏打ちされているのだろうか。

2018/09/24

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「1打席目でやられても次あるやろ」経験で成熟した鋼のメンタル

 やることは一緒―――。
 
 スポーツの取材をしていると必ず聞こえてくるフレーズだ。
一件、難しいことをいっているようには聞こえないのだが、この端的な言葉に栗山の経験が深く裏打ちされている
 
 栗山は続ける。
 
「結局のところ、やれることは一つしかないんですよ。それは何かと言ったら、集中して自分が打てると思った球をしっかり打ちに行く、それ以外はしっかり見極めるということ。もちろん、色々頭には浮かびますよ。ここで打ったらどうなるやろと。点が入る?勝ち越しになる?逆転になるとかね。自分がなんでこの試合に出してもらっているのか、とかもね。でも、そんなことを意識して考えるくらいやったら、自分がどうすればいいスイングして、いいプレーできるかを考えてプレーすることの方が大事なんですよ。色々考えていく中で、そんなことを考えてもなって削っていくと、結局、僕のやれることは、自分の打てる球を打ちに行く、というところに行きつくんです」
 
 冒頭のソフトバンク戦で2点タイムリー安打を放った場面。栗山には重いものがのしかかっていたに違いない。
 
 ワイルドピッチにより1点を先制していたとはいえ、両先発の力量差を考えれば、1点だだけでは足りない。
 
「もう一本頼む」「ここで試合を一気にこっちに持っていきたい」「頼んだぞ、ベテラン」。
 
 そんな声さえ頭をよぎってもおかしくなかったが、栗山は冷静な心中をこう振り返っている。
 
「シンプルに来た球を打とうと考えて打席に入りました。いろんなことが考えられる中で消去して行って自分のやるべきことに集中していました。勝つに越したことはないですけど、今日負けたからといって、明日がどうなるってわけでもないんで。まだ1回裏だったし、今日の試合だけでも千賀君との対戦は何度もあるわけで、1打席目でやられても次あるやろ、と。ウチの1番~4番やったら、またチャンスが来るやろうし、次打てばいいしくらいの気持ちでした」
 
 見事なメンタルコントロールというほかない。
 この場面は2球で追い込まれてしまったのだが、それも「打てる球じゃなかったから、手を出さなかっただけ」と振り返っているほどだ。
 
「やることは一緒だ」ということにただただ集中していたというわけである。
 
 さらに、この場面ではワイルドピッチで1点を先制した後、ソフトバンクの内野陣は前進守備を敷いていた。1死満塁の状況下ではセカンドでの併殺打を狙うシフトを敷いていたが、守備陣形変えていたのだ。
 
 栗山にはその状況さえ自然と入っていた。
 二遊間が前に来たことで、ヒットゾーンが広がっているのは確認できていた。
 
 「今後も千賀君とは対戦するし、一概には言えない部分もありますけど、(守備陣形を見て)強く叩けば野手の間を抜けてヒットになるかな。最悪フライになっても、三塁走者の浅村が返ってきてくれるやろという気持ちでした」
 
 こちらが想像するほどに栗山が重く受け止めていなかったところに、メンタルコントロールの上手さを感じる。これがベテランの経験というものなのか。
 
 元広島東洋カープの黒田博樹さんがロサンゼルス・ドジャースにいたころ、プレッシャーに強い印象を受ける黒田さんはがどのようにしてその重圧をはねのけることができるのかを尋ねたことがある。
 
 その時の黒田さんの言葉にはハっとさせられた。
 
「プレッシャーを作るのも、自分の考え方ひとつで、大きくなったり、小さくなったりする。考え方次第だと思う。自分はプレッシャーをエネルギーに変える努力をしてきた。考え方は人それぞれにある。それも一つの技術だと思う」
 
 プレッシャーは誰がつくるのか、そして、それをどう受け止めるのか。
 栗山が窮地に強いのは、おそらく周囲が考えるよりも、プレッシャーとは何かが分かって整理できているからだろう。
 
 考えることはたった一つ――。
 やることは一緒、なのだ。

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