「もっと点取ったれよ!」ドラフト1位・金丸夢斗が投げるたびに聞こえるドラゴンズファンの声。「後半戦は野手が借りを返す番だ」
2025/07/26 NEW
産経新聞社
新人投手の“クセ”を事前にみっちり研究していた
並のルーキーなら「厳しいプロの洗礼を浴びた」となるところだが、金丸はそれまでの3試合、すべて6回を投げ2失点以内に抑えている。いくら強力ソフトバンク打線が相手とはいえ、初回にいきなり4失点するようなヤワなピッチャーではない。どうにも解せんと思っていたが、試合後の井上監督のコメントを聞いて納得した。「球種がバレていたようだ」――これって、よく考えるとすごい話だ。昨季のパ・リーグ覇者が、交流戦でしか当たらないセ・リーグの新人投手の“クセ”を事前にみっちり研究していたということなのだから。金丸はそれだけのピッチャーだと、球界全体が認識している証である。
金丸もゲーム中に「何かヘンだぞ」と球種バレを察知。素晴らしいのは、すぐにピッチングを立て直し、初回の4失点だけで6回を投げきったことだ。3回に柳町・中村晃にヒットを許したが、野村を三振に仕留めて追加点を許さず、4回から6回まではパーフェクト。圧巻だったのは5回で、周東・今宮健太・柳町を3者三振に斬って取ったシーンには惚れ惚れした。
このソフトバンク戦は、前半戦8試合のうち金丸がQSを記録できなかった唯一のゲームだが、球種が見抜かれていなければこの試合がプロ初勝利になっていてもおかしくなかったと思う。6回107球、5安打4失点、7奪三振、1四球という内容は「負けてなお強し」。福岡遠征で3連敗を味わうことになった私だが、金丸の不屈のピッチングを生で観られたことが救いだった。その次の試合、6月13日の埼玉西武ライオンズ戦では、見抜かれたと思われる“クセ”を逆用して、西武打線を7回途中まで1失点に抑えるしたたかさも見せている。
ところで、金丸の背番号「21」は、ドラゴンズでは左の主戦級投手が背負って来た番号だ。私の記憶でいちばん古いのは、松本幸行(ゆきつら)。松本は1971年から9シーズン21番を背負い、1974年には20勝を挙げ20年ぶりのリーグ優勝に貢献している。その後も杉本正(1987~1990年)、チェン・ウェイン(2008~2011年)、岡田俊哉(2012~2023年)といったサウスポーが21番を継承。金丸がこの番号を継いでくれたことは嬉しかった。
金丸自身も「21」には深い思い入れがある。自分の誕生日が「2月1日」であることと、憧れの左腕投手・今永昇太(シカゴ・カブス)がDeNA時代に背負っていた番号だからだ。昨季、メジャー1年目で15勝を挙げた今永。金丸は177センチ、77キロ。今永は178センチ、79キロと体格はほぼ同じ。スピード以上にキレのある投球で、空振りが取れるところに憧れると金丸は言う。
関西大では自ら望んで2年次から「21」をつけ、プロでも希望が通った。入団会見で「21番が金丸で良かったと思ってもらえるように、自分の結果で示していきたいと思います」と力強く語ったのは実に頼もしかった。現状、0勝4敗と結果は出せていないが、それは彼の責任ではないと誰もがわかっている。後半戦は野手が借りを返す番だ。2ケタは無理でも、金丸の実力なら5勝ぐらいは挙げて当たり前。ドラゴンズ打線の奮起を望みたい。