貧打に苦しむ竜打線で輝く「神様・仏様・バヤシ様」。中日・岡林勇希が示す“レジェンド級”の数字とは
2025/07/09
産経新聞社

プロ野球 最新情報
7月、借金が今季初の「10」に膨らんだ中日ドラゴンズ。さらに守護神・松山晋也が戦線離脱するなど、苦境が続いている。その中で、初のオールスターに選出された岡林勇希は、打率.301でリーグトップの安打数を記録。高い出塁率と驚異的な三塁打で、チーム浮上の鍵を握る存在として期待が高まる。(文・チャッピー加藤)
7月は横浜スタジアムで横浜DeNAベイスターズに3タテを食らい、地元バンテリンドームで最下位の東京ヤクルトスワローズに負け越して1勝5敗と、なかなか上昇気流に乗れない中日ドラゴンズ。6日、ヤクルトに手痛い逆転負けを喫して、ついに借金が今季初めて2ケタの「10」に達してしまった。
さらに4日には、前回このコラム(https://www.baseballchannel.jp/npb/219540/)で取り上げた絶対的守護神・松山晋也が右上肢のコンディション不良で抹消というショッキングなニュースも飛び込んできた。ハードなトレーニングで自分を追い込み、メンタルも鍛え、28セーブ&球宴失敗なしとチームに大貢献してくれた松山。前回私は「松山が『ガンギマリ』でにらみつけ、戦っているのはバッターではなく、『人間の限界』という巨大な敵なのかもしれない」と書いたけれど、やはり彼も人の子。心身ともに尋常ではない負荷と戦っていたのだ。
ヒジなのか、肩なのか? 症状がどの程度なのかも含め詳細は分からないが、日頃から選手のコンディションに気を配っている井上一樹監督のこと、絶対に無理はさせないはずだ。ファン投票で約53万票を獲得して選出されたオールスターゲームについては辞退を表明していないが、野球人生はまだまだ長い。ここはしっかり体を休めて、万全の状態で戻ってきてほしいと切に思う。
実績を考えればむしろ遅すぎるくらい
さて、オールスターといえば、ファン投票で選出されたドラゴンズの選手がもう1人いる。外野手部門で選ばれた岡林勇希である。中間発表では同僚の上林誠知のほうが票数は上だったが、最後に逆転。みごと球宴への切符をつかみ取った(上林も選手間投票で選出)。プロ6年目で初出場というのは、2年連続ベストナイン(2022年・2023年)、3年連続ゴールデングラブ賞(2022年~2024年)、最多安打(2022年、161安打)、29試合連続安打(2023年、歴代9位タイ)という実績を考えればむしろ遅すぎるぐらいだ。ぜひMVPを獲って「セ・リーグに岡林あり」とアピールしてもらいたい。彼はそれだけの選手なのだから。
今季の成績は、7月8日の巨人戦を終えた時点で、79試合にすべて出場。打率.301、2本塁打、20打点。投高打低の傾向が著しい最近のプロ野球は3割打者が激減しているが、岡林はサンドロ・ファビアン(広島、打率.307)、中野拓夢(阪神、打率.301)と並んで、セ・リーグに3人しかいない3割打者の1人だ。しかも得点圏打率は.317とさらに高くなる。チャンスにサッパリ打てないドラゴンズ打線においては、まさに「神様・仏様・バヤシ様」だ。
安打数は96安打で、ファビアン(95本)を抑えてリーグトップ。初の首位打者&2度目の最多安打も十分狙える状況にある。ドラゴンズの選手が首位打者になったのは、2018年のダヤン・ビシエド(打率.348)が最後。日本人選手だと19年前、2006年の福留孝介(打率.351)にまでさかのぼる。ちなみに2006年はドラゴンズがリーグ優勝した年で、この年のホームラン王(47本)・打点王(144打点)はタイロン・ウッズ。ドラゴンズ勢が打撃3冠を独占したのだ。しかも3部門すべて数字がエグい。そりゃ優勝するわ。
何が言いたいかというと、打撃3冠のタイトルホルダーが生まれることは、チーム浮上の大きな力になる、ということだ。貧打が叫ばれて久しいドラゴンズにとって、岡林の首位打者獲得は良き起爆剤となるに違いない。ぜひ獲ってほしいし、獲らせたい。そのためには何が必要か?
これだけヒットを量産しているにもかかわらず……
まずは数字を見てみよう。岡林がレギュラーの座をつかんだ2022年以降の成績は以下の通り(今季の数字は7月8日現在)。
2022 142試合 553打数 161安打 打率.291 出塁率.329
2023 143試合 584打数 163安打 打率.279 出塁率.324
2024 123試合 425打数 109安打 打率.256 出塁率.304
2025 79試合 319打数 96安打 打率.301 出塁率.361
右肩の故障で出遅れて不振に終わった昨季も、後半戦は巻き返して3年連続100安打を超えたのはさすがだが、ご覧の通り、これだけヒットを量産しているにもかかわらず、岡林は3割を打ったシーズンが過去1度もない。それはなぜか?
ここで注目してほしいのは出塁率だ。「出塁率が高い=塁に出ている=凡退するケースが少ない」ということ。「3割5分を超えれば一流の証」と言われ、昨季のセ・リーグ出塁率トップ2は、①ドミンゴ・サンタナ(ヤクルト).399 ②タイラー・オースティン(DeNA).382。2人はシーズン終盤まで首位打者の座を争い、オースティンが逆転でタイトルを獲得したのは記憶に新しい。
今季、岡林が打率3割をマークしているのは、出塁率が3割6分台と大幅に上昇したことも大きな要因だ。出塁率を上げることが首位打者獲得のカギだし、チームの得点機会を増やすことにも直結する。そのためには、ヒットを打つだけではなく、四球も増やすことだ。四球が多いとその分打数も減るので、打率も自ずと上昇することになる。
岡林の四球数は、2022→29、2023→39、2024→29だが、今季はすでに昨季を超える30個と激増している。これまで安打数が多いわりに打率が3割に達しなかったのは、四球が少なかったからだ。なまじ技術が高いがゆえに、難しい球でもヒットにできるとみればあえて打ちにいくところがあった岡林だが、ボールを見極める余裕ができたことも好調の要因だろう。
岡林の非凡さを如実に示す数字
ところで岡林といえば、“脚”も大きな魅力の1つだ。盗塁数はすでに昨季の10個を上回る14個。これはチームトップの上林(16個)に刺激された面もあるだろう。このままいけば、自己最高の24個(2022年)を更新するシーズン26個のペースだ。そして私がもっと賞賛されるべきと思うのが「三塁打の多さ」。昨季は出遅れもあって3本にとどまったが、今季はすでにリーグトップの5本をマーク。これは岡林の非凡さを如実に示す数字に他ならない。
岡林は2022年・2023年と2年連続で10本の三塁打を記録している。「2年連続2ケタ三塁打」は、1961年・1962年にドラゴンズの大先輩・中利夫と、東映フライヤーズ(現・日本ハム)・毒島章一がそろって記録して以来61年ぶりの快挙だった。
よく「三塁打を打つのは、ホームランを打つより難しい」と言われる。ヒットを打つ能力と、ボールが外野から返球されるまでの間に三塁を陥れる俊足、この両方を兼ね備えていないと三塁打は打てないからだ。その難易度が高いスリーベースを、シーズン10本も、しかも2年連続で打ったのである。この記録を持っているのは、プロ野球の長い歴史の中でも岡林を含め過去5人だけ……繰り返すが彼はそれだけのレジェンド級プレーヤーなのだ。
今季は79試合の出場で5本なので、10本に達するにはちょっとピッチを上げねばならないが、2年ぶり3度目の「2ケタ三塁打」も十分射程圏内だ。「“三塁打王”なんてタイトルはないんだし、そんな数字はどうでもよくない?」などと言うなかれ。岡林にはこんな哲学がある。「シングルヒットを脚で二塁打に、二塁打を三塁打にする」。1本のヒットで、よりホームに近い塁まで進み、本塁を踏むこと……長年得点力不足に悩むチームにおいて、それが自分の果たすべき“使命”だと岡林は考えているのだ。
今季初の三塁打は、開幕3戦目の3月30日、横浜スタジアムで行われたDeNA戦で5回、2死ランナーなしの場面で飛び出した。センターオーバーの打球を放ち、俊足を飛ばして迷わず三塁に突き進んだ岡林。走りながら、外野手の追い方、フェンスへの到達時間を見て、瞬時に「行ける!」と判断したからこその三塁打だった。後続の打者が凡退したため得点にはつながらなかったが、岡林が三塁にいるだけで相手投手にとっては大きなプレッシャーになる。
岡林は交流戦でも、バンテリンドームで2本の三塁打を放った。6月18日のオリックス戦では、4-3と1点差に迫られた5回、先頭で三塁打を放ち、ドラゴンズはこの回2点を挙げて突き放した。6月22日の日本ハム戦では3回、2-0の場面で追加点となるタイムリースリーベースを放ち、直後に細川成也の犠飛で生還。ドラゴンズは4-1で快勝した。どちらの三塁打も、その後ホームインしていることも見逃せない。
ドラゴンズの「通算三塁打数」のトップ5
岡林が今季ホームを踏んだ回数=得点はチームトップの39。「貪欲に先の塁を狙い、ホームを踏む」という哲学を象徴する数字だし、三塁打の多さもその意識の表れだ。ちなみに、ドラゴンズの「通算三塁打数」のトップ5は誰だかご存じだろうか?
正解は……①中利夫 81 ②高木守道 55 ③大島洋平 54 ④原田督三 46 ⑤杉山悟・立浪和義・福留孝介 38
すべて球団の歴史に残る名選手ばかりだ。トップの中は現役18年間で81本だから、年平均4.5本。岡林は現在、プロ6年目の途中で通算28本。プロ入り2年目までは0本なので、実質4年で計算すると年平均7本。中を上回る驚異的なペースで、あと7~8年で球団歴代トップに立つ計算だ。
NPB記録は阪急ブレーブス(現・オリックス)・福本豊の115本。この偉大な記録の更新も決して不可能ではないだろう。杉山・立浪・福留は再来年には抜くはずだ。バンテリンドームの広い外野が、来季からホームランテラス設置で狭くなるのが気にかかるが、岡林なら軽く乗り越えてしまいそうな雰囲気がある。とりあえずオールスターで三塁打、期待しとるでね!