中日ドラゴンズの絶対的守護神・松山晋也が挑むのは「人間の限界」。シーズン56セーブペースで快投続ける“失敗しない男”の 真髄とは
2025/06/25 NEW
産経新聞社

プロ野球 最新情報
交流戦を負け越した中日ドラゴンズ。しかし、首位との差を維持できた背景には、新守護神・松山晋也の驚異的な活躍がある。今季から守護神を務めている右腕は、いまだに”救援失敗なし”だ。今回は、借金チームで驚異のセーブ数を稼ぎ、「失敗しない男」として君臨する彼の強さの秘密に迫る。(文・チャッピー加藤)
8勝10敗―――4年連続でセ・パ交流戦に負け越してしまった中日ドラゴンズ。パ・リーグ上位4強(日本ハム・オリックス・ソフトバンク・西武)にはすべて負け越し。点差以上にチーム力の差を感じた試合も多かった。
ただ、いきなり福岡ソフトバンクホークスに3連敗したことを思えば、マイナス2で交流戦を終えたのは御の字、かもしれない。幸い、今季の交流戦はセ・リーグで勝ち越したチームはなく、首位・阪神タイガースも途中7連敗を喫して8勝10敗。ドラゴンズと同星で、首位との差(6・5ゲーム)は交流戦前と変わっていない。
特に6月22日、北海道日本ハムファイターズとの最終戦に勝ったのは大きかった。もし負けていたら4連敗で交流戦を終えることになり、借金も今季最大の「7」に膨れ上がっていた。よく踏みとどまったし、何より勝ち方が最高だった。
初回に4番・細川成也のタイムリー二塁打で1点を先制すると、3回には2番・村松開人の犠飛と3番・岡林勇希のタイムリー三塁打、さらに細川の犠飛で3点を追加。投げては安定感抜群の先発・松葉貴大がファイターズ打線を7回1失点に抑え、あとは継投で逃げ切って4-1で快勝。先に点を取り、先発投手がリードを守って、リリーフ陣につなぎ逃げ切る。これがドラゴンズの「勝ちパターン」だ。交流戦の最後をこの勝ち方でモノにできたのは大きい。
そしてこの勝ちパターンは、最後をビシッと締めてくれるクローザーがいるからこそ成立する。そう、今季の交流戦で7試合に登板し、すべて無失点に抑え7セーブを挙げたドラゴンズの新守護神・松山晋也だ。交流戦ラストゲームでも最後を締め、これで今季27セーブ。6月中に30セーブに届くかもしれない勢いだ。
チーム69試合目で27セーブは、計算するとシーズン56セーブのペース。2017年に、当時ソフトバンクでプレーしていたデニス・サファテがマークしたNPB記録・シーズン54セーブを更新することになる。ちなみにこの年のソフトバンクは94勝を挙げ、ぶっちぎりでリーグ優勝を果たした。チームが圧倒的に強かったからこそ、セーブ機会も増え、54セーブという偉大な記録が樹立できたともいえる。
31勝のうち27試合でセーブを記録
だが今季のドラゴンズの成績は、交流戦終了時点で31勝36敗2分。借金5のチームにいてこのセーブ数は驚異的だ。31勝のうち27勝、つまり約87%は松山が最後を締めていて、しかも今季の松山は、ここまで救援失敗が1度もない。セーブがつかなかった試合は4試合あるが、いずれも同点の場面で登板したもので、すべて無失点で切り抜けている。「私、失敗しないので」。まるで『ドクターX』大門未知子のようだ。
ここまで依存度が高いと「シーズン終盤までもつのか?」と心配になるファンも多いだろう。そのへんは井上一樹監督もちゃんと心得ていて、登板数がかさんでいた交流戦中盤、6月14日の埼玉西武ライオンズ戦に松山はベンチ入りしていなかった。一瞬「故障か!?」と目の前が暗くなったが、井上監督は試合後の談話で「いると使ってしまうから、腹をくくってベンチから外した」と語った。松山の代わりはいないと思っているからこその深謀遠慮だ。
ただ、いくら指揮官が配慮してくれているとはいえ、これだけ「松山依存」が続けば肉体的な疲労だけでなく、精神的な疲労も相当なはずだ。それでも「ガンギマリ」と呼ばれる形相でバッターをにらみつけ、ランナーは許しても絶対に逆転は許さない松山。そのタフネスぶりの裏には、いったい何があるのだろうか?
松山は青森県出身で、地元・八戸学院大学から2022年育成ドラフト1位でドラゴンズ入り。プロ1年目の2023年は二軍戦で実績を残し、6月に支配下登録を勝ち取ると、この年一軍で36試合に登板。1勝1敗17ホールドと活躍した。
マウンド度胸を買われ、プロ2年目の昨季は8回を担うセットアッパーを任されたが、開幕戦では1死も取れず4失点を喫して負け投手に。翌日の第2戦も1点差を守れず試合は引き分け。「松山のせいで開幕2連勝を逃した」と叩かれた。ところが彼はその批判をバネに立ち直り、昨季は59試合に登板。2勝3敗41ホールドの成績を挙げ「最優秀中継ぎ投手」のタイトルに輝いた。まさに“不屈の男”である。
絶対的守護神の移籍に伴い…
迎えたプロ3年目の今季。それまで絶対的守護神として君臨していたライデル・マルティネスの読売ジャイアンツ移籍が決定。ポッカリ空いた穴を埋めるべく、井上新監督がクローザーに指名したのは松山だった。むろん、松山本人にも「ライデルにとって代われるのは、俺しかいない」という自覚があった。
今年1月、松山は沖縄・オキハム読谷平和の森球場(ドラゴンズの二軍キャンプ地)で自主トレの模様を公開。いきなり報道陣の度肝を抜いた。松山はなんと軽トラックに乗って姿を現し、荷台の2ヵ所にフックを取り付けると、そこにロープを引っ掛け、なんとそのまま軽トラを引っ張り始めたのだ! 軽トラの重さは約740キロ。しかも荷台に報道陣を乗せて、総重量は約1トンに及ぶ。まさに松山らしい、ユニークなトレーニング法だ。
なぜそこまで極端なことをするのか? 私が思うに松山は、過去に誰も見たことのない、唯一無二のクローザーになろうとしているのではないか? 彼のピッチングを球場で生で観ていると「狙った獲物=勝利は絶対に逃さない」という野生の匂いを感じるのだ。プロ初セーブを挙げた3月29日の横浜DeNAベイスターズ戦では、最後の打者・筒香嘉智をフォークで三振に仕留めるとマウンド上でガッツポーズを披露。その日のハマスタは雨が降っていて寒かったが、私は違う意味で震えた。
1413日ぶりの勝利をプレゼント
2セーブ目も生で観た。4月1日、バンテリンドームナゴヤで行われた巨人戦。3-1と2点リードの最終回に登板した松山は快調に2者を抑えたが、そこから3連打を食らって1点差に迫られ、なおも一・三塁のピンチ。だがここで「打たれたらどうしよう」と弱気な素振りを一切見せないのが松山の強みだ。若林楽人を151キロのストレートでライトフライに仕留め、中継ぎで登板した岩嵜翔に1413日ぶりの勝利をプレゼントした。
ちなみに松山にとって岩嵜は、今季自主トレを共にしたクローザーの大先輩だ。ならば余計に震えが来そうなものだが「途中で打たれようが、追いつかれなきゃいいんだ」という腹の据わり方! そのふてぶてしさに、またしてもスタンドで震えた私だった。
また、本拠地・バンテリンドームナゴヤでは今季から、松山の登場時、AK-69の「CROWZ」(「クローザー」にも引っ掛けている)に乗って大型ビジョンで特別映像が流れている。最後はカッと見開いた彼の両目が大映しになる、実に印象的な演出だ。
今季どこまで「救援失敗なし」が続くのかは、正直わからない。だが、今の松山ならこのままシーズン終了まで突っ走ってしまいそうな気もする。もしそうなれば前代未聞の大記録だが、肉体も精神も本当にギリギリのところまで自分を追い込める彼ならば、あり得るのではないか。松山が「ガンギマリ」でにらみつけ、戦っているのはバッターではなく、「人間の限界」という巨大な敵なのかもしれない。