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消えた「鎌スタの夢」。ドラ1吉田輝星のトレードから浮かび上がる、球団の宿題【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#213】

2023/11/26

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産経新聞社



「親心」報道に複雑な思い

 それにしても5年でトレードとは判断が早すぎると思う。新庄剛志監督の「3連覇してるチームで、山本(由伸)君と山崎(福也)君が抜けるポジションをね、彼がオリックスに行ってつかんでもらえたらすごくチャンスですし、球団が変わることで全然化けてくる選手はすごく多いので。マイナスは考えずプラスと考えてもらって」というコメントは、またも「ですし」口調が気になるが、そこはいいのだ。字句通りにチームが変わって気分一新、ポジティブに頑張ってほしいと受け取るのは可能だけど、率直な問いとして、なぜファイターズでは「全然化けてくる選手」になれないのか? 上沢だって抜けそうなのに、ファイターズで「すごくチャンス」がないのか?、が生じてしまう。
 
 電撃トレードを報じる各社のトーンは「投手育成に定評のあるオリックスにドラ1、輝星を託す親心」だ。あー、「親心」かと複雑な思いになる。日頃、チームと接している各社の番記者さんは「親心」と表現したのだ。それは言い方を変えるとこういうことになる。甲子園の星、吉田輝星はファイターズでは育成できないという見立てだ。育成できなかったから「育成に定評のあるオリックスに出した」、という認識だ。
 
 ファイターズはずっと「スカウティングと育成」を看板にしてきたが、それが看板倒れになってしまった。これで来季以降、輝星が例えば山﨑颯一郎、宇田川優希のように1イニングをビシッと締めるセットアッパーとして名を成したとき(由伸が出て、2人のどちらかが先発転向ってこともあり得るだろう)、「親心ですし」で目を細めていられるのかという話だ。
 
 まぁ、僕はファイターズの(これまでの)トレードにはあまり異論を言って来なかったつもりだ。大原則として「見切る/見切られる」みたいなネガティブな事柄ではないし、新庄コメントのような移籍のプラス面を考えた、両球団ウインウインの関係が望ましいと思う。だけど、輝星にはファンの思い入れがある。それを切断したのだと球団は知るべきだ。「鎌スタの夢」が消えた。そしてもっと大きな問題、「ファイターズの育成は機能不全に陥っているのではないか?」は検討してもらいたい。実際問題、選手の供給は止まっているのだ。これは「吉田輝星ショック」として宿題にすべきところだ。
 
 例えばの話、今年のドラ1、細野晴希(東洋大)は1試合投げて四死球8つくらい出す制球難のピッチャーだ。その代わり、積んでるエンジンはものすごい。150キロ台の剛速球、しかも荒れ球をガンガン投じてくる。魅力ある素材だが、大成させるには投手部門の育成が不可欠だと思う。「吉田輝星ショック」はそこに暗雲を投げかける。大丈夫なのかなぁ。ホント頼みますよ。
 
追記 トレードでやってくる黒木優太投手のことに触れる紙幅がなかった。どうもすいません。実績もあり、復調すればもちろん戦力になってくれる選手だと信じている、偶然だが、僕は2012年夏の神奈川大会、保土ケ谷球場で橘学苑の黒木優太投手を見ている。3回戦、東海大相模に敗れはしたが、ストレートの伸びに目を見張ったのだった。これは縁があったのかなぁと思う。活躍を大期待している。

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