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中田翔との別れ――断ち切られたストーリー【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#154】

中田翔が巨人に電撃トレードとなった。ファイターズの顔の突然の移籍、複雑な心境だ。

2021/08/22

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電撃移籍した日に筋書通りのストーリーとならず

 2か月振りの札幌ドームだった。先ほど3対3の引き分けで試合が終わり、1時間ほど呆けて、気を取り直したところだ。まさか9回表、あとアウトひとつのところまで行って杉浦の押し出しで同点になり、その裏、杉谷のベース踏み忘れでゲームセットになるとは思わなかった。野球は本当に筋書きのないドラマだ。筋書きがなさすぎる。今日は中田翔が巨人に電撃移籍した日だ。ファンのもやもやは相当なものだ。そりゃジェームス野村佑希の2本のホームランで決まると思うじゃないか。一篇のストーリーがみんなの心に浮かんでいた。
 
 主砲中田翔を失った日、右の強打者野村が後継に名乗りを上げるストーリー。スポーツ新聞は見出しのイメージも固まっていたと思う。中田がいなくなっても次代のヒーロー、ジェームス野村がいる。田中幸雄、中田翔と引き継がれたファイターズの背番号6は野村がつけることになるだろう。お立ち台で野村がファンに語りかける。つらいですがいつまでも下を向いていられません、僕がチームを引っ張ります…。みんな号泣だ…。でも、そうはならなかった。何でかっていうと筋書きのないドラマだから。ベース踏み忘れで微妙な空気のなかゲームセット。
 
 ただファイターズは今日、勝ちたかったんだと思う。その気持ちは見えた。チームは中田翔と別れのあいさつもできなかった。朝、報道が出て、午前11時過ぎから東京大手町の巨人球団事務所で入団会見だ。僕らファンもびっくり仰天だ。中田は同僚への暴行行為が発覚し出場停止処分中だった。神戸で栗山監督が「正直、このチームでは難しい」とコメントして、ええっと思っていたのである。シーズン中はあり得ないだろうけど、ひょっとしてオフに中田放出か?
 
それがまさかこんなに急に。信じられなかった。現場の選手らは内心複雑なものを抱えていただろうが、逆に団結する心理も働く。「中田がいないから負けた」とは言われたくない。野村のホームランが出たときのベンチの表情を見ただろうか。あれが皆の本心だ。勝ちたい。最終回、制球を乱した杉浦だってギアを上げて159キロを投じた。まぁ、その力みが四球禍につなかったのだ。ラストアウトの杉谷は確かにボーンヘッドだが、サヨナラのランナーとして一歩でも先の塁へ進みたかった表れだ。気持ちはあった。気持ちが上滑りしたんだと思う。
 
 試合は冴えない幕切れだったが、佐藤龍世の移籍初スタメン&初ヒットのようなポジティブな要素もあった。切り替えて明日がんばろう。切り替えて出直しだ。切り替えて切り替えて。
 
 と、なかなか簡単に割り切れないのだ。悶々としている。ため息が出る。今日という一日は本当にくたびれた。一体、僕らは何を経験したのだろうか?

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