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数字は日米別が筋が通る――イチロー大記録樹立の裏で起きた、もう一つの記録更新【小宮山悟の眼】

タイ・カッブの数字をイチローが上回り、いよいよメジャー通算3000本安打へ向かって視界が開けた。イチローは確かに全盛期に比べれば衰えたことは否めないが、それでもまだ十分現役として戦える。

2015/09/09

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イチローと最も対戦経験のある日本人投手として

 イチローがタイ・カッブの記録を抜いたそのカージナルス戦。実は大記録が樹立された裏で、個人的に非常にショッキングな出来事が起こっていた。

 その試合のカージナルスの先発投手はジョン・ラッキー。彼はカージナルスの前に、ボストン・レッドソックスとロサンゼルス・エンゼルスに在籍していた。イチローがシアトル・マリナーズでプレーしていた頃、同地区エンゼルスのラッキーとは何度も対戦していた。

 報道によると、ラッキーは、メジャーリーグでイチローが最も多く対戦したことのある投手でもあるのだ。

 では、日本時代を含めて最も対戦したことのある投手は誰かと言えば……それは、何を隠そう、私、小宮山悟だったのだ。その試合で、私との対戦回数が抜かれてしまった。

「イチローと最も対戦経験のある投手」という肩書は気に入っていたが、これからは「最も対戦経験のある日本人投手」と言わなければならない。

 個人的には、非常に残念な出来事だった。

 ちなみに、日本時代のイチローと私の対戦成績は、126打席、119打数33安打。打率.277、2本塁打、13奪三振。あのイチローを2割7分台で抑えているのだから、我ながら悪い数字ではないと思う。

 ただ、体感では、5割近い確率でバットの芯を喰った当たりを飛ばされた。
 強烈なセカンドゴロ、ライトライナー。結果はアウトだが、投手と打者の勝負という観点では負けの内容が多かったように思う。

 イチローと対戦する時は、常に打たれる覚悟をもって臨んでいた。

 気持ちよくスイングをさせたら、ライトスタンドへの本塁打になってしまう。ポイントは、いかにして、「自分のスイングをさせないか」だった。

 いくつもスイングを崩すための策のパターンを用意して、勝負に臨む。

 もちろん、イチローもこちらの攻め方を読んで、即座に対応してくる。そんな勝負は本当に面白かった。本人に確認したことはないが、彼も私との勝負を楽しんでくれていたのではないだろうか。

 世界一のヒットメーカーとの対戦は、私の現役時代の最も印象深い思い出のひとつでもある。

 そんなイチローも現在41歳。確かに全盛時に比べれば衰えはあるだろうし、本人にその自覚もあるだろう。しかし、守備力に限れば、現在でもメジャーリーグのアベレージ以上を保っている。脚力も、年齢を考えれば十分なレベルだ。まだまだ、十分にメジャーリーグの舞台で戦っていける。

 メジャーリーグ通算3000安打達成、そしてピート・ローズの保持する通算最多安打記録4256本の更新をぜひ、期待したい。

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小宮山悟(こみやま・さとる)

1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。

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