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「特別な1勝」伊藤大海が歩む未来――北海道のファイターズの歴史を継ぐ男【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#148】

伊藤大海が本拠地で初勝利を飾った。自分で考え、工夫ができ、向上心と探求心を持ち合わせる道産子ドラ1ルーキーのこれからは、間違いなく明るい。

2021/05/29

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えのきどいちろう

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賢さとセンスを感じる言葉

 ついさっき、GAORAで中日1回戦(札幌ドーム)を見終えたところだ。10対1の大勝。ヒーローインタビューのお立ち台に高濱祐仁(猛打賞の活躍)と伊藤大海(本拠地初勝利)が立った。2人とも初々(ういうい)しくてよかったんだけど、やっぱり伊藤大海だ。僕は彼の言葉にいつも賢さとセンスを感じる。
 
「北海道で勝つことの意味の大きさをあらためて実感して、これからどんどん勝ちを積み重ねていけるように頑張りたいと思います。野手の方が打ってくれたというのがあって、自分のリズムに乗っていけたというのがいちばんかなと思います」
 
「特別な1勝だと思っているので、これから『伊藤大海』が始まっていくという気持ちを持って、これからも色んなことにトライして、ひとつでも多くファンの皆さんと勝利を喜びたいなと思います」
 
 もう100点満点のコメントだ。これ以上、何もない。が、インタビュアーはお決まりの「ファンの皆さんへのメッセージ」をお願いしてしまった。もう十分メッセージした直後にまたメッセージ注文だ。伊藤大海はちょっと「えっ?」という感じになった。で、少し考え込んで、こういう「メッセージ」をひねり出した。
 
「絶対ファイターズのエースになれるように頑張ります」
 
 もしかしたら新聞は「エース宣言」と囃(はや)し立てるかもしれない。エース格の上沢直之と成績を比較し、また西崎や岩本、ダルビッシュといった過去のエースの1年目と比べる記事をものにするかもしれない。だけど、これは上記のような事情があってのコメントだ。言うことがなくなってひねり出した発言だ。決して上沢をはじめ、先輩投手に対して失礼な文脈で発せられたものじゃない。
 
 で、僕にはこの発言が意外でも何でもない。ファイターズファンに訊きたい。伊藤大海が「ファイターズのエースになりたい」以外の何か別の思いを抱いてチームに加わった気がするだろうか? 伊藤大海の後ろ髪がなんでハネてるかっていったらダルビッシュに憧れたからだ。道産子ルーキーはファイターズが大好きで、いつかダルビッシュさんみたいに札幌ドームで投げたいって思って育ったんだよ。そりゃ、「ファイターズのエースになりたい」って門を叩いたに決まってるよ。
 
 僕は昨秋、ドラフト直後、JR室蘭線に乗って「苫小牧駒澤大学」(現在の北洋大学)を訪ねていった日のことを思い出した。もう嬉しくてね、調子に乗って大学正門のところで記念写真を撮ろうと飛んで行った。漁師町の鹿部町出身だ。道産子のドラ1だ。計算してみたら新庄劇場や稲葉ジャンプの2006年、07年は小学生の頃だ。ついにそういう世代がファイターズに入って来る。北海道のファイターズを見て、憧れて、野球を始めた世代がファイターズに入団するのだ。僕は室蘭線の錦岡駅から大学までの道、ナナカマドの赤い実が舗道に転がるのを見て、何かしみじみしてしまった。
 
 例えば僕は森本稀哲と家族ぐるみの付き合いだ。ひちょりの新人時代からずっと見てきた。何かね、報われたような気がした。あのハラハラしたりヤキモキしたり、上がったり下がったりした日々がムダじゃなかった。ちゃんと見ててくれた野球少年がいる。ひちょりたちがつくった歴史を継いでくれる世代が現れる。内緒だけど、苫小牧駒澤大学までの道々、ちょっとやばかった。人がぜんぜんいなかったから助かったけれど。
 
 だから伊藤大海の「北海道初勝利」は大きなことなんだ。僕は相手が中日だったことも06、07年日本シリーズを連想して万感の思いだ。こういうのは偶然だけど、必然でもあるような気がする。あのとき、ダルビッシュが立っていた場所で、同じ相手に立ち向かい、勝利した。

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