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セイバーメトリクスの視点で見るNPB歴代最強打者ランキング ~1位-3位~

2021/02/21

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Getty Images, DELTA・道作

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 昨年の5月から「セイバーメトリクスの視点から過去の打撃ベスト10を振り返ろう」の企画では、各年度の打撃10傑を取り上げきた。前回の掲載で1936年から2020年まで、日本プロ野球の歴史を貫通させている。ただ企画はこれで終わらない。今回からはランキングに使用した指標wRAA(※1)を選手ごとに合算し、日本プロ野球オールタイムの最強打者ランキングベスト50をカウントアップ方式で紹介していく。
 

 
 またランキングはシーズン合算で行っているため、キャリアを日本で長く送った選手がどうしても有利になる。現役選手や、キャリアの中でMLB挑戦を試みた選手、外国人選手にとっては不利なランキングだ。そこで短期間に集中した残された実績、全盛期の活躍を評価するため、各選手のキャリアベスト5年、ベスト10年で見た場合のwRAAランキング順位も併記した。歴史的名選手の最盛期のピークがどれだけ高いものだったのかも、通算ランキングとあわせて楽しんでほしい。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。データは筆者算出。
 

 

1位:王貞治(1959-1980年)

 

wRAA通算:1333.7 ベスト5シーズン:1位 ベスト10シーズン:1位
 
 ランキングを見る前にすでに想像されていたとは思うが、王が2位を引き離しての1位となった。通算wRAAは1333.7。リーグ平均的な打者が王と同じ数だけ打席に立った場合に比べ、1333.7点チームの得点を増やしていると考えることができる。ちなみに後述する2位の選手は744.0点であったため、王がどれだけ圧倒的かがわかるだろう。
 
 王は、本塁打や打点といったクラシックな指標で見た場合でも、日本プロ野球において相当飛び抜けた存在であるとは思われるが、セイバーメトリクスの視点ではそれが一層際立っている。現在の多くのオールドファンが王について語るときは、もちろん本塁打が一番の話題になるだろう。しかし、王の最も驚くべき実績は本塁打などではなく、wRAAのように、生産した得点の大きさであると考えられる。
 
 また王はwRAAベスト5シーズンだけの合計で438.5を記録しているが、キャリア通算でこの数字を超えることのできた選手は歴代わずか13人。日本のプロ野球が発足して85年になるが、現役時代のトータルで、王のわずか5年間だけの数字に届いた選手が、いまだ13人しか生まれていないというのもすごい話である。
 
 本塁打以外のクラシックなスタッツで見た場合でも、王はたくさんのおもしろい数字が残している。例えば、打率ベスト10に入ったのは、16年連続と史上最長記録を持っており、特に昭和40年代の10年間はすべて十傑入り。さらにその半分に当たる5シーズンで首位打者となっている。このように形容すれば強力なアベレージヒッターを連想されそうである。
 
 総合してみると、ポジティブな意味をもつ打撃指標では、ほとんどすべての項目でNPB史において圧倒的な数値を残している。実績が他選手からあまりにも突出しているため、歴史的なスタッツを俯瞰するとき、王の打撃スタッツを無視した方が興味深く見えることがあるほどだ。
 

2位 張本勲(1959-1981年)

wRAA通算:744.0 ベスト5シーズン:8位 ベスト10シーズン:5位
 
 2位は張本勲となった。1960年代から1970年代前半までのパ・リーグを代表する強打者であり、wRAAでリーグ首位となったのは7回を数える。wRAAは積み上げの数字であるため、通算で高いスコアを記録するためには多くの打席数と長い全盛期が必須である。張本は高卒3年目から18年目までの間に14年連続を含む15回にわたってwRAAで30得点相当を超えるなど、おそらくNPB史上で最も長い全盛期を経験した一人である。
 
 wRAAベスト5シーズンでは歴代8位、ベスト10シーズンで歴代5位、通算で歴代2位と、期間が延びるほどランクが上がって行くことも、張本の継続力の高さを表している。
 
 デビュー後から10年目までに、3回の最高長打率を記録したが、最高出塁率はデビュー後9年目からの8年間に7回獲得と、出塁の面ではむしろキャリア中盤から後半に力を発揮している。キャリア後半における安打製造機のイメージと異なり、若い時期はむしろパワーの面に特性があったようだ。
 
 近年の物理的な研究により、打球速度が一定のラインを超えると、長打の確率ばかりか安打の確率まで急上昇することがわかっている。もしかすると張本の安打の多さも打球速度による部分が大きかったのかもしれない。特に昭和30年代あたりまでは身長180㎝以上の選手も、体重80㎏以上の選手もかなり珍しい時代であったが、張本はどちらも超えており、体格面で大きなアドバンテージを持っていた。
 
 また5年目の1963年には、33本塁打、41盗塁をマークしながら打率が.280という意外な結果でトリプルスリー達成とはならなかった。打率3割以上が16回、30本塁打以上が5回、30盗塁以上が2回と、トリプルスリーの各条件は複数回クリアしているが、1年に揃うことはなく、最後まで縁がなかった。3000本を超える安打を放ちながら、二塁打・三塁打・本塁打のいずれかがリーグ最多であったシーズンが一度もないこともおもしろい巡りあわせである。
 

3位:長嶋茂雄(1958-1974年)

wRAA通算:678.2 ベスト5シーズン:2位 ベスト10シーズン:2位
 
 3位はwRAA678.2を記録した長嶋茂雄となった。長嶋については、張本とは逆に歴代上位の強打者の中では衰えがやや早かった印象がある。代わりに全盛期のピークの高さは出色で、ベスト5シーズン、10シーズンの累計ではともに王に次ぐ歴代2位を占めている。
 
 長嶋というと数々の逸話に彩られたことから、勝負強い、華があるという印象があるだろう。しかし、セイバーメトリクスの視点で総合打撃指標、守備指標Relative Range Factor (※3)を振り返ると、シンプルに能力が極めて高い選手像が浮かび上がる。これだけ圧倒的な打撃貢献を残していれば、重要な打席で好結果を残すことも多かっただろう。勝負強いといった評は後付けの色彩が強いと考えている。
 
 長嶋は打率・本塁打・打点といったクラシックな打撃指標で見た場合、歴代の強打者の中では傑出しているわけではない。長嶋の引退直後には飛ぶボールによる打撃上位時代が訪れ、打撃三部門において長嶋を上回る打者が多く登場した。後年のファンにとっては、長嶋の果たした決定的な役割と、打撃三部門で特別に傑出はしていないことのギャップが埋められず、「特別に勝負強い」という評価が一般的になったのではないだろうか。
 
 ちなみに長嶋のプロ12年目にあたる1969年の年俸は4000万円ほどと報道されていた。当時のレートで10万ドル強。この年は王の年俸も長嶋と同レベルだった。しかし当時はMLBにも10万ドルプレーヤーは10人ほどしか存在しなかった。安く感じられるかもしれないが当時はそんなものである。おそらく最高年俸と思われるウィリー・メイズとボブ・ギブソンでも12万ドル台(※4)。ハンク・アーロンで9万2500ドル、前年引退のミッキーマントルは最高年で10万ドルだったので、ほかの選手は推して知るべしである。当時の読売にはMLB 最高年俸レベルの2人が同時に在籍していたことになる。
 
 また長嶋が活躍した年代は新メディアであるテレビが隆盛を迎える時期であった。長嶋プロ入りの翌年に皇太子ご成婚で30%に乗ったテレビ受像機普及率は、東京五輪までの間に90%に迫ったが、この間ちょうど全盛期の長嶋は時代の波に乗った。野球場の数百倍の人間が家でプロ野球を見るという習慣が全国に根付き、テレビとプロ野球が共に成長した時期である。このような事情は現代において再現されていない。長嶋型のスーパースターを次に見られるのは、未知のメディアが生まれる時期なのかもしれない。
 
(※2)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指
(※3)Relative Range Factor::9イニングあたりの刺殺・補殺の数によって野手の守備力を評価するRange Factorを発展させた指標。一般的な野球の記録から算出することができるため、過去の野手の守備を評価する際に用いられることが多い。
(※4)MLBの年俸は米データサイト・Baseball Referenceを参照。
 
DELTA・道作
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 
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