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阿部慎之助が圧倒。坂本勇人が初タイトルを獲得 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~2012年編~

2020/12/16

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Getty Images, DELTA・道作

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 本企画はNPB過去年度の打撃ベスト10を眺め、往事の野球を今の視点から振り返り楽しんでもらおうというものだ。ただベスト10は従来の打率ではなく、セイバーメトリクスにおける総合打撃指標wRAA(※1)を採用する。これはリーグ平均レベルの打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標だ。この視点で振り返ることで、実は過小評価されていた打者がわかるということもあるかもしれない。
 

 
 この年は低反発球導入2年目にあたるシーズンである。2011-12年は試合が動かなかった上、時間制限の「3時間半ルール」もあって引き分けが激増した。2012年は両リーグあわせて引き分け74試合という結果である。1990~2000年のセ・リーグは11年間で引き分けが18。引き分け皆無のシーズンも3年間あった。これはセ・リーグに引き分け再試合のルールがあったため、リスクを冒して勝負をつけようとするバイアスが働いたためもあるが、その時代から考えると隔世の感がある。
 

2012年のパ・リーグ

チーム    試合 勝率 得点 失点 得失点
日本ハム   144 .556 510 450  60
西武     144 .533 516 518  -2
ソフトバンク 144 .508 452 429  23
楽天     144 .500 491 467  24
ロッテ    144 .481 499 502  -3
オリックス  144 .425 443 525  -82
 

 
 この年は李大浩(オリックス)が1位となった。1打席あたりの得点貢献を表すwOBA(※3)でも.367でトップを記録。91打点で打点王にもなっている。本塁打はトップに3本差の24本塁打、長打率はトップと僅差の2位、出塁率は4位と多くの分野で上位をキープしたことが好成績につながった。
 
 2位は前年に引き続き糸井嘉男(日本ハム)がランクイン。2年続けてただ1人4割台の出塁率を記録し、この年も最高出塁率を獲得している。この年は9本塁打に終わったが、この時点ですでにリーグを代表する打者となっている。セ・リーグの鳥谷敬同様に投高打低環境のこの時代にマッチした数少ない打者のようだ。
 
 3位には出塁率2位、長打率4位の好成績をマークした中島裕之(西武)。以上の3人がトップ3だが、前年のセ・リーグと同様にトップ3人ともに.360台のwOBA(※3)にとどまっている。wOBA.370以上の打者がいないのはパ・リーグ初で、低反発球の威力をまざまざと見せたかたちのランキングとなった。
 
 ランキング4位以下には各指標でトップとなった打者が散っている。4位のウィリー・モー・ペーニャ(ソフトバンク)は.490で最高長打率を記録。ただ出塁率.339と出塁能力の低さが響きトップ3には入らなかった。5位は打率.312で首位打者を獲得した角中勝也(ロッテ)。3本塁打ながら上位にランクインとなった。
 
 6位中村剛也(西武)は、.231と低打率で27本塁打を放ち本塁打王を獲得。打率が規定到達打者最下位で本塁打王となれば珍記録だったが、最下位から2番目となっている。20本台の本塁打王は、この時点におけるパ・リーグ過去50年で2回目のことである。ほかには阪神では芽が出なかったアーロム・バルディリス(オリックス)が前年に続き7位にランクイン。岡田彰布監督との強い結びつきもありオリックスに移ったが、移籍以降それほど目立たないながらランキング入りも果たす意外な活躍を見せている。
 
 ベスト10圏外の注目選手ではようやく長距離打者として頭角を現してきた中田翔(日本ハム)を取り上げる。この年は打率.239ながら24本塁打を記録。鳴り物入りで2007年にプロ入りしてからここまでかなり時間がかかった印象がある。もし低反発球でなければこの時期に長打を量産し、キャリアもより良い軌道に乗っていたかもしれない。低反発球によって、野球人生が変わった1人の可能性もあると考える。
 
 この年の優勝は日本ハム。ソフトバンクは前年に続きリーグ最少の429失点を記録したが、2007年あたりから継続的に攻撃面で難を抱えており、この年も優勝には遠かった。しかしこの間補強の手を緩めず、翌年にはこの欠点を修正している。
 

2012年のセ・リーグ

チーム  試合 勝率 得点 失点 得失点
読売   144 .667 534 354  180
中日   144 .586 423 405  18
ヤクルト 144 .511 499 514  -15
広島   144 .462 427 454  -27
阪神   144 .423 411 438  -27
DeNA  144 .351 422 571  -149
 

 
 阿部慎之助(読売)がリーグを席巻したシーズンとなった。wRAA、wOBA、長打率、出塁率はすべて大差での1位。打撃三冠では打率・打点もこれまた大差での1位となった。wRAAを勝利の単位に換算した値(※2)の6.7は、セ・リーグでは2006年福留孝介(中日)以来の数字。阿部1人がいる・いないで優勝を左右できるレベルの影響力であった。捕手としての長打率1位は1939年に年間1シーズン制になって以降、NPB史上3人目。阿部はこのシーズンで3回目の最高長打率であるが、これは捕手として史上最多となる。また、意外なことに、捕手の出塁率1位はNPB創設77年目にして阿部が初めての達成である。
 
 2位にはバランスの取れた強打を披露したラスティングス・ミレッジ(ヤクルト)が入った。3割、20本塁打をクリアしたが、双方をクリアできた打者はパ・リーグには皆無だったため、この打者不利の時代としてはかなり優れた打撃だったと考えられる。3-4位には長野久義、坂本勇人の読売勢がランクインこの2人はともに173安打で並びの最多安打となっている。
 
 6位はこの年からDeNAに移籍したアレックス・ラミレス。この年は四球の獲得がわずか18個にとどまった。セ・リーグでは1969年江尻亨(大洋)以来43年ぶりの20四球未満でのベスト10入りとなっている。逆に7位の鳥谷敬(阪神)はリーグ最多の94四球を記録。この四球獲得能力がベスト10入りの主因となった。8位の大島洋平(中日)は最多安打にあと1本と迫る172安打を記録。ただ一方で打点はわずか13に留まり、規定到達者としては2リーグ制以降最少の12打点に迫る怪記録をマークしている。
 
 ベスト10圏外での選手は規定打席にわずかに届かなかったウラディミール・バレンティン(ヤクルト)。規定打席未到達で本塁打王という2リーグ制以降では初の記録を達成。この記録の第1号は1936年の藤村富美男(タイガース)である。ほかに1943年に2名の選手が同様の記録を残したが、当時は試合も本塁打も少なく、現代とは同列に考えられない時代のことであった。前年も規定打席到達者の中で最低打率での本塁打王と、レア記録を続けて残したバレンティンであったが、この翌年極めつきのレア記録を生み出すことになる。
 
 チームに目を向けると、ランキング上位4人のうち3人を固めた読売が圧勝。攻撃だけでなく失点抑止能力も傑出しており、失点はわずか354点に抑えた。前年のソフトバンクに続き、記録的な失点の少なさであった。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 
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