新庄剛志引退。福留孝介・ウッズがセを席巻 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~2006年編~
2020/11/23
Getty Images, DELTA・道作

本企画はNPB過去年度の打撃ベスト10を眺め、往事の野球を今の視点から振り返り楽しんでもらおうというものだ。ただベスト10は従来の打率ではなく、セイバーメトリクスにおける総合打撃指標wRAA(※1)を採用する。これはリーグ平均レベルの打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標だ。この視点で振り返ることで、実は過小評価されていた打者がわかるということもあるかもしれない。
2006年のパ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
日本ハム 136 .603 567 452 115
西武 136 .597 645 556 89
ソフトバンク 136 .573 553 472 81
ロッテ 136 .481 502 562 -60
オリックス 136 .391 481 570 -89
楽天 136 .356 452 651 -199
松中信彦(ソフトバンク)が3年連続でのリーグ首位となった。松中は打率.324で首位打者を獲得したほか、自身初の100四球超えも達成し、最高出塁率を獲得。1打席あたりの得点貢献を示すwOBA(※3)でもリーグ1位となった。
松中はこのシーズンは19本塁打に留まるなど前2年に比べ長打力を示せなかったが、出塁率.453を記録。より出塁に偏った打撃成績を残している。リーグ全体の本塁打を見ると2003年に記録された1000本塁打から632本にまで減少しているが、松中がやや長打力を落としたのもこのようなリーグの趨勢を反映した結果と見ることができる。
こうした流れに各選手が影響を受け、この年の規定打席到達者29人中2ケタ本塁打は13人、20本塁打以上は6人に留まった。ちなみに2003年はそれぞれ22人、18人であったためかなり減少しているのがわかる。
2・3位には、100打点でともに打点王となった小笠原道大(日本ハム)とアレックス・カブレラ(西武)がランクイン。小笠原は32本で初の本塁打王を獲得したほか、自身初の最高長打率(.573)も記録した。4位ホセ・フェルナンデス(楽天)は来日以後4年間すべてベスト10入りと、地味だが安定した得点生産を続けている。彼に限らずこの年までの数年は10人のメンバーがかなり固定化された時期でもある。
このシーズンは西武がベスト10に3人を並べるなど、得点2位の日本ハムに78点差をつける最多得点をマークした。しかし優勝は攻撃だけでなく守備でも好成績をマークした日本ハムとなった。
その日本ハムの中でこの年はSHINJOの存在は見逃せない。2年前に帰国して日本ハム入団後、様々なパフォーマンスで注目を浴びた新庄だったが、この年は4月のヒーローインタビューの最中に引退を宣言。その後チームも優勝争いを演じたことにより一気に話題の中心となった。それまでは比較的地味な存在だった日本ハムだが、この年のNPBは完全に日本ハム及びSHINJOを中心に動いていたように思う。
2006年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
中日 146 .617 669 496 173
阪神 146 .592 597 508 89
ヤクルト 146 .490 669 642 27
読売 146 .451 552 592 -40
広島 146 .440 549 648 -99
横浜 146 .408 575 662 -87
福留孝介(中日)がwRAA66.1と自身最高のパフォーマンスを発揮してリーグ中日を優勝へと導いた。wRAAのほか、wOBA、打率出塁率、長打率でリーグ首位となっている。wRAA66.1は中日の球団記録であり、最高出塁率・長打率の同時記録は中日の選手としては1991年落合博満以来。二塁打47本を記録するなど、長打83本は投手有利のナゴヤドームを本拠地とする選手としては出色のスタッツであった。
3番福留のあとを打った4番タイロン・ウッズは2位にランクイン。47本、144打点で本塁打・打点王を獲得した、wRAA56.8は通常シーズンならリーグ1位レベルの数字である。この福留、ウッズ2人の合計で120点以上の余剰得点を獲得した中日はリーグ最多タイの669得点を記録。失点も496と最少を記録して優勝した。ほかにはこの年から読売に移籍した李承燁がキャリアハイをマークしている。
4・5・7位にはヤクルト勢の岩村明憲、アダム・リグス、青木宣親の3人がランクイン。タイプは異なるが得点貢献の高い打者が揃い、ヤクルトは中日と並ぶリーグ最多得点をマークした。岩村は地味ながら3年続けて打率3割30本塁打をクリアしたほか、リーグ3位の39本塁打を記録したリグスが2番打者を務めるなど、セイバーメトリクスの観点からも注目の打線だった。
ベスト10圏外での注目選手は横浜の吉村裕基である。この年はプロ入り4年目でレギュラーの座を確保。規定には36打席ほど不足したが、wOBAは5位相当の.388を記録した。四球を狙わない積極的な打撃スタイルであったため、この年は416打席で10四球の獲得に留まっている。9位の村田修一とともに横浜の将来を担う逸材とも思われたが、あまりに偏った打撃スタイルが大成を妨げた感が強い。
この頃はスポーツ全般に新時代を迎えた時代でもある。「北海道代表が甲子園で優勝」「日本人が水泳自由形、そして陸上競技で金メダル」「北海道にプロ球団ができて日本シリーズ制覇」といった具合である。これらは筆者が生きている間に目にすることはあるまいと思っていたが、この直近3年だけですべて実現している。月並みだがスポーツというものはわからない。年季の入ったラグビーファンでも、生きている間に日本が南アフリカに勝つことはあるまいと思っていたことだろう。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
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