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映画の内容を体現する田中賢介、2006年SHINJO劇場の再現なるか【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#95】

映画『ファイターズ・ザ・ムービー』が公開された。スポーツマネジメントとして新しい球団の形を示し、北海道民から愛されるファイターズ。日本一奪還を目指す今シーズン、すでに引退発表をしている田中賢介がカギとなる。

2019/02/17

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賢介は「ファイターズの粋」のような選手

 球団移転のくだりのトップに「北海道日本ハム初代オーナー」の大社啓二氏が登場したのが、僕には象徴的に思えた。「大社オーナー」というと球団創設に尽力された大社義規氏(2009年野球殿堂入り)が有名だが、実は啓二氏のスポーツビジネスへの造詣の深さ、進取の気性は大変なものだ。僕は故・広瀬一郎氏(元電通。スポーツコンサルタント)に聞いたことがあるが、東大のスポーツマネジメント講座が開かれたとき、大社啓二氏は(社業で多忙を極めるなか)全コマ通われたそうだ。広瀬さんは「あんなに優秀な方はいない」と何度も語った。プロ野球再編騒動のとき、僕も広瀬さんも大社啓二氏こそ希望の星ではないかと考えた。
 
「北海道日本ハムという球団」は大社義規氏が愛し抜き、そして後を受けた啓二氏が構想したスポーツマネジメントの新しいモデルなのだ。もちろんフロントに集められた人材が具体を作り上げていくのだが、僕には啓二氏の構想こそが核になってると思える。ファイターズはたぶん12球団一、フロント主導の球団だ。スカウティングと育成戦略を柱とし、常にプロセスを情報共有する。ファンサービスを徹底し、絶えず話題性を打ち出す。「大リーグ時代」を受け入れ、むしろ米球界と密接につながり、選手のチャレンジを後押しする。それらは一足飛びにでき上がったものでない。少しずつ少しずつ積み上げてきたものだ。
 
『ファイターズ・ザ・ムービー』にはトレイ・ヒルマン、岩本勉、稲葉篤紀、金子誠、建山義紀、森本稀哲、ダルビッシュ有、中田翔、大谷翔平といったレジェンド&スターたちが多数、コメント出演しているのだが、イメージリーダーを考えると「SHINJO、ダル、大谷」の3人ではないだろうか。このうち新庄剛志はコメント出演せず、代わりに「SHINJO担当広報」だった荒井修光が出てくる(嬉しい!)。で、「SHINJO、ダル、大谷」の3人は全員、海を渡っているのだ。この越境性はもはやファイターズの個性だという風にも考えられる。
 
 映画を見終わって、僕の心に残ったのは田中賢介の存在だ。ご存知のように田中賢介は今シーズンかぎりの引退を表明している。賢介が今年のキーパーソンなのだ。それは『ファイターズ・ザ・ムービー』を見ればよくわかる。
 
 春先から引退に向かってカウントダウンしていくようなシーズン日程の感覚は、2006年のSHINJO劇場にそっくりだ。賢介は「スカウティング&育成」も「本拠地移転」も「米球界挑戦」も、『ファイターズ・ザ・ムービー』で描かれた重要なところを全部体現している。ものすごくファイターズっぽい、「ファイターズの粋」のような選手なのだ。ファンと賢介がどんなドラマを「共同制作」するかが、すなわち2019年シーズンなのだと思う。
 
 最後に余談をひとつ。映画のなかで二箇所、「幾度の優勝」というフレーズが出て来る(ひとつはナレーション、ひとつは字幕)のだが、違和感があった。「幾度の優勝を経験したファイターズ」というように、(おそらく)度重なる優勝、というくらいのニュアンスで使われたのだと思う。「幾度かの優勝」なら話はまだわかるのだ。話者のワンダーは回数に向かっていて、「一体、何度優勝したのだろう、それはわからないけれどその積み重なりがマーベラスなことよなぁ」的な響きを持つ。が、「幾度の優勝」は意味が取りにくい。質問形ならすんなり通るけどなぁ。「幾度の優勝?」「北海道では5度!」。「幾度」って自分のことだから回数わかってるでしょう。文語調の高級表現をしようとして失敗した感じがする。映画は残ってしまうからリテイクしたらどうかなぁ。
 
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