大谷翔平選手をはじめとした日本人メジャーリーガーを中心にメジャーリーグ・日本プロ野球はもちろん、社会人・大学・高校野球まで幅広いカテゴリーの情報を、多角的な視点で発信する野球専門メディアです。世界的に注目されている情報を数多く発信しています。ベースボールチャンネル



二度祝福された西川遥輝。ナンノコッチャ&ワケワカンネーが集約された「幻の200盗塁」【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#77】

6月1日、西川遥輝が正真正銘の200盗塁を達成したが、実は5月30日の巨人戦で「幻の200盗塁」が起きていた。

2018/06/03

text By



「バカ試合」ならではのコクと味わい

 そもそもは予告先発が吉川光夫と上沢直之だったから走って見に行った試合なのだ。JR水道橋駅を降りてから本当に気が急いて走っていた。上沢は今季、不振の有原航平に代わってエース格を任される抜群の安定感だった。この試合まで実に22イニング無失点だ。ところがその上沢が2回裏、何と8失点食らうのだ。エラーもからんで余裕がなくなっていた。アウト1つ取るのもままならない。東京ドームはG党のお祭りだ。そこまで巨人は5連敗。2回終わって8対0なら連敗ストップだろう。わーわーわー。
 
 だけど、ワンサイドの状況のなか、僕は何か楽しくなってしまったのだ。こういうのは古参ファンのヒネたところというのか、ロジックもドラマ性も通用しないようなワケワカンネー展開を見るとビリビリ嬉しくなってしまう。説明のつかない事態が心底楽しい。上沢の8失点は「いきなり連打であわてた」「エラーで気持ちが切れた」「打たれて単調になった」等々、説明したい向きもあろうが、魔に魅入られたみたいなことじゃないか。ひとつ歯車が狂うと行くところまで行かないと止まらない。それが「打者一巡のマギー5号3ラン」だった。アレヨアレヨという間にそこまで行く。
 
 イメージとしては「ゲリラ豪雨」的な何かだった。ドーム球場に巨人の猛打が雨アラレ。だけどチームも、見てる自分も、不思議に落ち着いている。3回西川のゴロゴーで1点返して、これひょっとして「バカ試合」になったりしないかと考えていた。我ながら図々しかった。これは交流戦に入る直前、メットライフで西武と打ち合いを演じ3連勝して、何かタガが外れたのだ。8失点しても何とかなる気がしている。これはアレだ、山賊のおかげで身ぐるみはがされても風邪ひかない身体になったんだよ。
 
 4回、レアードの10号ソロを皮切りにビッグイニングが生まれる。今度はワケワカンネー展開と言いたいのは巨人ファンだったろう。吉川がやたらとフルカウントをつくって、テンポ悪かったのが伏線だ。2死満塁をつくって宮國椋丞に交代。この宮國が死球、四球、四球で3連続押し出し。更にリリーフした谷岡竜平が今度はワイルドピッチでスコアは2点差、8対6まで追いついてしまった。完全な「バカ試合」だ。「ゲリラ豪雨」的な何かは、今度は巨人のほうにザァザァー降っている。4万5千大観衆が(どちらのファンも)ナンノコッチャだ。
 
「あぁ、俺は野球を見ている」の実感は8対6になって、それがもうね、感動的でもなければ勝負のアヤもない、ナンノコッチャ&ワケワカンネーの渦巻きのなかから生まれてきた。人生は制御不能なのだと思う。運命は不条理なのだ。その縮図を3塁側内野席から自分は見ている。いや、僕だけでなく4万5千人が見ている。内心、それぞれの立場で「制御可能であってほしい」「条理の通ったものであってほしい」と願い、それがそうでもない、紛うかたなきカオスであるらしいと気づいてぼーっとしている、そのコクと味わい。自分はひどい試合のひどい空気を吸っている。

事後に起きた記録訂正

 正直、ひと晩じゅう続いてほしかった。ひどい試合をひどい俺が見るのだ。立派な人は電車のあるうち帰んなさい。そしたらね、巨人1点追加の9対6になって、9回表、「カミネロ劇場」が幕開けする。先頭・田中賢介三振の後、西川が左中間への二塁打を放つ。で、お待たせしました、問題のシーン! 次打者・大田泰示の2球目、西川が走った。巨人・大城捕手は送球せず、西川は3塁に生きる。
 
 ビジョンに西川が大映しだ。「通算200盗塁達成 西川遥輝」の文字。場内アナウンスに耳を傾けてみよう。「ただいまの盗塁で北海道日本ハムファイターズ、西川遥輝選手、通算200盗塁達成です」。西川は帽子を取って一礼する。僕はスタンディングオベーションだ。
 
 で、そこから大田と中田翔のタイムリーで2点加え、最終的には9対8のスコアで「バカ試合」が決した。負けかいっ。そんなら8対0で負けても結局同じかいっ。お互いに大変な思いをして、労力も費やして、結論は同じなのだった。僕は本当に面白かった。負けたけど心から晴れ晴れ。いいもの見たなぁ。今年ここまで見たなかでいちばんじんわり来る。
 
 で、試合後わーわー騒いで、さて、とスタンドの階段を上り、帰りかけたところで場内アナウンスが響いたのだ。「9回表、西川選手の3塁への進塁は盗塁ではありません。訂正してお詫び申し上げます」。ハムファンも巨人ファンも「えー」と言っていた。野手が無関心、無警戒のなかで進塁したということで、盗塁ではなく「野手選択」になるらしい。事後に取り消される珍しいケースだ。4万5千人のナンノコッチャ&ワケワカンネーが半笑いで駅まで歩く。外は雨だった。
 
 西川遥輝選手、二度の200盗塁達成おめでとう! カミネロの投球を一球見て、タイミングをはかってスタートした「幻の200盗塁」も素晴らしくスリリングだった。もちろん中日・柳裕也-松井雅人バッテリーから達成した正真正銘の「200盗塁」も最高だ。こんなの通過点だと思うけど、僕らはいい思い出ができました。二度とも大拍手を送ったよ。
 
「クローザー有原航平」に期待するアグレッシブな投球。闘争心を取り戻せ!【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#78】
 

1 2