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前田幸長、ドラフト1位の肖像#4――笑顔なき記者会見「なんでロッテなんだ、西武は何をやっているんだ」

(2017年2月18日配信分、再掲載)

2020/04/18

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田崎健太



まさかのドラフト会議

 1988年のドラフト会議で最も注目されていたのは、慶応大学の左腕投手、志村亮の動向だった。大学4年間で31勝、防御率1.82という成績を残しており、即戦力という評価。しかし、三井不動産への就職を決めておりプロ入りを拒否していた。
 
 複数球団の指名が予想されていたのは、津久見の川崎憲次郎だった。その他、大阪桐蔭の今中慎二、大垣商業の篠田淳、社会人ではNTT四国の渡辺智男、プリンスホテルの石井丈裕が上位指名確実と見られていた。その中には、夏の準優勝投手である、前田幸長の名前も入っていた。
 
 スポーツ番組に出演した報知新聞の記者、中島伯男氏は、先発陣の左腕が工藤公康のみと手薄な西武が前田を1位指名すると予想している。
 
 ドラフト前日、地元、西日本スポーツはこう書いている。
 
〈「全12球団のスカウトから〝高い評価はしている〟と言われたけど、ついに1位指名するとは約束してくれなかった。つまりぼくは1位指名の人よりも力不足と判断されたわけで、それならば大学に進学した方がいいと考えた」
 前田がこの結論を出したのは前日の二十二日深夜。父親の助司さん(五〇)との親子会議で決心したという。(中略)
「もし明日どこかの球団が1位指名しても、もう進学を決めた気持ちは変わらない」とも言った。
 大学からは、一度セレクション試験をボイコットした同志社から再度の入学勧誘があったほか、法政、明治、中央、東海大など一二大学から誘われているという。進学先は「これから決める」が、「東京六大学は連投させられて故障してしまう可能性が高いので、東都か関西で…」と前田〉

 
 ドラフト会議は11月24日、東京の九段にあるホテルグランドパレスで行われる。この日、前田はいつものように学校に行き、授業を受けていた。
 
「教頭先生がぼくのことを呼びに来たんです。当時、ドラフト1位は午前中に決まりました。呼びに来た段階で、1位で指名されたんだなと分かりました」
 
 福岡第一からは、前田の他、野手の山之内健一が指名される可能性があった。そのため、学内に記者会見場を用意していた。前田は教頭の後に続いて、階段を下りていると新聞記者が耳元で囁いた。
 
「前田君、ロッテのドラフト1位みたいだけれど」
 
 それを聞いた瞬間、前田は何かの間違いだと思ったという。
 
「ぼくの教室は4階で、記者会見場は1階だったんです。階段を下りながらずっと、おかしい、なんでロッテなんだ、西武は何をやっているんだと考えてました。記者会見場に座って、質問を受けたのですが、何を喋ったのかも覚えていない。笑顔の一つもなかった。記者からの質問は、まったく頭に入らず、ずっと西武は何をやっていたんだ、と心の中でつぶやいていましたね」

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