”奇策が警戒心をひっぱり出す”万波中正、ツーランスクイズ成功の効果【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#255】
8月5日の西武戦、3回に万波中正が「金農旋風」の2018年を思い出させる2ランスクイズを成功させて、一気にビッグイニングをつくった。
2025/08/09 NEW
産経新聞社

ツーランスクイズはぶっつけでもできる?
8/6の夜、NHK『ニュースウォッチ9』のスポーツコーナーで沖縄尚学-金足農業戦のニュースを見て、吉田大輝は先発で行きたかったろうなぁと思った。夏の甲子園1回戦の好カードだ。1-0で沖縄尚学が投手戦を制した。沖尚はエースの末吉良丞が9回を投げ切り、金農は斎藤遼夢、佐藤凌玖、吉田大輝のリレーだった。もちろん世間は吉田輝星(オリックス)の弟、吉田大輝に注目した。沖尚打線は右の本格派、大輝先発を想定していたと思う。それが左の斎藤になったのは大輝のコンディションが整わなかったということらしい。
金足農業の紫のユニフォームを見ていて、「金農旋風」の2018年を思い出した。そして準々決勝、金農-近江の「ツーランスクイズサヨナラ勝ち」のミラクルを思い出した。金農は吉田輝星フィーバーだ。鹿児島実業、大垣日大、横浜高校を撃破し、乗りに乗っていた。が、「近江ブルー」の近江高校が立ちふさがる。2対1のまま、最終回を迎えてしまう。「金農旋風」はここで終わるのか。終わらなかった。連打と四球でノーアウト満塁を作り、何とサード前へスクイズを敢行する。3塁走者はホームインまず同点、サードが1塁へ送球する間に2塁走者もヘッドスライディングで生還、まさかの「ツーランスクイズサヨナラ勝ち」が成立した。あれは近江のサードが可哀想だったけど、金農が一枚上手というか、よくまぁ、あんな奇策を準備していたと思ったものだ。シチュエーションを想定し、練習してなかったら実行に移せないだろう。
いや、ぶっつけでも実行に移せるのか? もちろん僕の連想は前日の西武15回戦(8/5、エスコン)、万波中正のツーランスクイズに飛んだ。3回、水谷瞬、郡司裕也のタイムリーで3対0とリードして、尚も1死2、3塁。打席にはその時点で打点42(リーグ4位)の強打万波。フツーに考えたら「犠牲フライでオッケーのつもりで気楽に(あわよくばフェンス直撃)」というシチュエーションだろう。西武のピッチャーは武内夏暉、ここは三振が取りたいところだ。
で、一球ボールの後、スクイズだ。パ・リーグTVが「奇襲オブザイヤー2025」の惹句で伝えた新庄野球の粋。球は148キロのストレート。万波は見事3塁線にバントを決める。サードランナーの石井一成はスタートがよく、西武デービスはホームをあきらめ、1塁へ送球する。と、セカンドランナー郡司裕也もホームに飛び込んでくる。試合後、新庄剛志監督は西武の内野が「3塁デービス、1塁ネビン」だった点を奇襲成功の条件に挙げた。特にNPB新加入のデービスはそんな点の取り方(取られ方?)、まったくイメージしてなかっただろう。
ただこれが来日したての外国人選手じゃなかったとして、果たして想定し得るかという問題だ。これは万波中正というバッターを知ってれば知ってるほどひっかかるんじゃないか。少なくとも僕は考えもしなかった。解説者、野球評論家も含め、エスコンにいた全員が万波は打ちにいくのをテンから疑ってなかったと思う。