なのに泣いた。井上一樹監督は松葉貴大をちゃんと見ていた。負け犬根性が染みついた中日ドラゴンズの変わりつつある「今」
2025/05/09 NEW
産経新聞社
4勝目を挙げたのに…。勝利した試合で見せたマウンドでの涙
4月に入ってからも、松葉は安定感のあるピッチングを披露した。4月5日のヤクルト戦は5回2失点で負け投手になったものの、続く12日の阪神戦は7回1失点、19日のDeNA戦は6回1/3を無失点、26日のヤクルト戦は8回までゼロを並べ、9回1死まで投げて2失点。惜しくも完封こそ逃したが3連勝。「残業」は当たり前になるどころか、3月・4月は4勝1敗で防御率1.34。春先のドラゴンズの大黒柱は、間違いなく松葉だった。
驚いたのは成績だけではない。先月26日のヤクルト戦、中継を観ていたら、9回に井上監督から直々に交代を告げられ、マウンドで悔し涙を流す松葉の姿が映った。繰り返すが、松葉は逆転を許したわけではないし、この試合でハーラートップの4勝目を挙げたのだ。なのに泣いた。完封できる展開だったのに、できなかった。自分の中でベストを尽くせなかったことを悔いて泣いたのである。これこそ、去年までのドラゴンズに欠けていたもの。負け犬根性がしみついたチームが、徐々に変わりつつあることを実感した瞬間だった。
松葉は今季から、何か特別なことを始めたわけではない。自分の持ち味は髙橋宏斗のようにバンバン三振を奪うことではなく、打たせて取るピッチングにある。より長いイニングを投げるために、ムダな球数を要さないよう配球にも工夫。スタミナアップにも取り組んだのだろう。日々地道に、やるべきことをやっていただけだ。井上監督はそんな松葉の姿をちゃんと見ていたので、信頼して大事な開幕第2戦を任せたのだ。
正直、今季は十分な選手補強ができたとは言いがたい。そんな中、戦力豊富なライバル球団と渡り合うには、現有戦力を引き上げる「眼力」が必要だ。指揮官がちゃんと自分を見ていてくれて、期待に応える場を作ってくれること、それが選手にとっては大きなモチベーションになる。「コミュニケーション・モンスター・一樹」の本領発揮はこれからだ。
【了】