なのに泣いた。井上一樹監督は松葉貴大をちゃんと見ていた。負け犬根性が染みついた中日ドラゴンズの変わりつつある「今」
2025/05/09 NEW
産経新聞社
「すみませんでした、課長」松葉が見せた想像を超えるピッチング
オリックス時代からずっと先発メインで投げ続けている松葉。ドラゴンズでも、登板試合は1試合を除いてすべて先発だ。そんな松葉に移籍後つけられたニックネームが「松葉課長」。空調の効いたバンテリンドームで5回まで投げてお役御免、というケースが多く、それが定時に退社するサラリーマン課長を連想させたからだ。6回、7回まで投げたりすると「おっ、松葉課長、きょうは残業だがや」(笑)。松葉本人はかつてこのあだ名について「自分のことで盛り上がってもらえてありがたい」「7回まで投げるだけで褒めてもらえてラッキー」なんて語っていたが、本心は絶対そうじゃないだろう。先発投手たるもの、まずは完投、完封を目指すのが本来。5回で降板を告げられたときも「もっと投げたいのに…」が本音ではなかったか。
迎えた2025年。春季キャンプは二軍スタートだった松葉だが、オープン戦できっちり結果を出し、開幕ローテーション入りをつかみ取った。そして井上監督は、開幕戦でエース・髙橋宏斗が5失点KOされた翌日、3月29日の開幕第2戦に松葉を先発させたのである。対戦相手・DeNAの先発はトレバー・バウアー。この試合、私は横浜スタジアムに足を運んで生観戦したが、松葉にはたいへん申し訳ないけれど、正直勝つと思っていなかった。開幕戦で相変わらず点が取れないドラゴンズ打線の様子を見ていたら、バウアーを打てるわけがない。援護がないままベイスターズ打線につかまり、5回で降板、という展開を予想していたのだ。
ところが……雨が降り、気温もひとケタで激寒の中、松葉は立ち上がりから硬軟取り混ぜた配球でベイスターズ打線を翻弄した。ドラゴンズ打線が2回に木下拓哉のタイムリーで1点を先制すると、7回まで94球を投げ、2安打無失点、5奪三振、無四球の好投を見せリードを守り抜いた。8回は清水達也、9回は松山晋也が締めて、なんとドラゴンズが1-0で勝利。松葉はバウアーに投げ勝ち今季初勝利を挙げただけでなく、井上監督に記念すべき「監督初勝利」をプレゼントしたのである。私は負けを予想した自分を恥じ、松葉に謝りたい気持ちでいっぱいになった。すみませんでした、課長。そして残業、お疲れ様でした!