なのに泣いた。井上一樹監督は松葉貴大をちゃんと見ていた。負け犬根性が染みついた中日ドラゴンズの変わりつつある「今」
2025/05/09 NEW
産経新聞社
チームの雰囲気を変えた「コミュニケーション・モンスター」
そんな状況を立て直すべく、今季からドラゴンズの指揮を任されたのが井上一樹新監督である。ドラゴンズには投手として入団したが、プロ4年目のシーズン途中から野手へ転向。叩き上げでレギュラーの座をつかみ、星野仙一監督時代の1999年はリーグ優勝に貢献した。規定打席に達したのはこの年だけだが、勝負強いバッティングでスーパーサブとしてチームを支えた。
引退後は指導者としても能力を発揮した。二軍監督を務めた2011年にはドラゴンズ二軍をファーム日本一に導き、2020年には元チームメイトの矢野燿大監督に請われて阪神タイガースの一軍コーチに就任し、ヘッドコーチも務めたほどだ。昨季、11年ぶりに二軍監督としてドラゴンズに復帰。前年、ウエスタン・リーグで最下位を独走したチームを率いて、最後まで優勝争いを演じたのだからさすがだ(最終的に2位)。そして昨オフ、辞任した立浪監督の後を受けて一軍監督に昇格したのである。
「ちょっと地味すぎないか」という声も球団内部にはあったようだが、現役時代、選手会長としてファンサービスにも熱心だった井上監督の就任を歓迎するファンは多い。指揮官が井上監督になって、まず変わったのはチームの雰囲気である。立浪監督時代は上意下達で、首脳陣と選手の間にも距離があったが、今は井上監督と選手が気軽に笑いながら話すシーンも見かけるようになり、ベンチのムードも格段に明るくなった。この雰囲気は、上からモノを言うのではなく、対話重視で選手の側に下りていく自称「コミュニケーション・モンスター」井上監督だからこそ醸し出せたのだと思う。
また、昨季はファームの指揮官だったこともあって、井上監督はすべての選手をよく見ている。過去の実績にとらわれず、その選手が今、自分のすべきことを認識し、日々ちゃんと努力しているか? そこを見る。なぜなら井上監督自身が現役時代、そういう不断の努力を重ねて試合に出場していたからだ。こういう指揮官の下では、本当に努力している選手が映(ば)える。
今回はそんな選手を1人クローズアップしてみたい。プロ13年目、2019年のシーズン途中にトレードでオリックス・バファローズから移籍して、ドラゴンズでのキャリアは今季で7年目になる松葉貴大・34歳である。