「野球を知ってる」淺間大基の好走塁。記録に残らずとも珠玉のプレー【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#248】
GW前半戦、敵地のソフトバンクで3タテ。日替わりで選手が勝利に貢献、特に攻撃面ではスクイズや犠打といった小技が光ったが、もっとも興奮したのは隙のない走塁で1点を奪った淺間のプレーだった。
2025/05/03
産経新聞社
解説者からも絶賛された好走塁
それよりこのソフトバンク3連戦には珠玉のシーンがいくつも散りばめてあったと思うのだ。ファイターズは今シーズン、ホームラン数12球団トップ&「犠打ゼロ」で突っ走ってきた。MLBのトレンドを見ても打線の破壊力は必須なのでホームラン数が増えたのはいい。が、「犠打ゼロ」は自慢にならない。これは犠打を企図しなかったわけじゃないのだ。他チームよりサインの出る回数が少なかっただけのことで、単に「送りバントを失敗した」「犠牲フライが打てなかった」という意味でしかない。ことさらスモールベースボールを目指す必要はないけれど、必要なバント、必要な犠牲フライはきっちり決めてほしい。空中戦も緻密な小技も両方あってこそ強いチームと言えるんじゃないか。
このソフトバンク3連戦でファイターズはやっと「緻密な小技」を決めた。水野達稀がスクイズを決めたし、郡司裕也が犠牲フライで打点を稼いだ。これは技術の問題なので「やらない」はあっていいが、「やれない」はよくない。特に接戦をものにするのにホームランを待望していてはラチがあかない。一発で決まれば豪快だが、必要なときにしっかり技術を披露できてプロというものだろう。新庄剛志監督の胸中にもしかしたら「今の段階でチームを小さくまとまらせたくない」があって、バットを強く振り抜かせるように仕向けたのかもしれないが、といってバント失敗シーンに顔を曇らせるのも再三見かけた。仕掛けるときにはきっちり決めてほしいのだ。
というわけでホームランもいいけれど、スクイズや犠飛が見られた(どちらも今シーズン初)ことを当コラムでは特記しておきたい。そしてこの3連戦でいちばん興奮したシーンも記録には決して残らない、技術やセンスの結晶のようなものだった。
それは4/30の第2戦の7回表、無死1、3塁の場面で起きた。スコアは3対1、まだどっちに転ぶかわからない。打者・清宮幸太郎はファーストゴロを打つ。3塁走者・淺間大基はここで「本塁突入しませんよー」という偽装をした。ファースト石塚は淺間を見て、ホーム送球ではなく併殺を取りにいく。セカンドへ送球し、3-6-3のダブルプレーを完成させるのだが、淺間はその間にホームを奪い、決定的な4点目を手に入れていた。これは「野球を知ってる」選手じゃないとできないプレーだ。一瞬、3塁に戻りかける芝居をして、石塚の目を欺(あざむ)き、するするっとホームを盗み取る。起きてから(清宮がファーストゴロを打ってから)考えたのでは足りない。あらかじめこうなったら石塚はこう反応するからこうだな、とイメージがなくてはならない。つまり、準備だ。
僕はあの「決定的な4点目」は淺間のセンスと技術、そして準備の勝利だと思う。あの瞬間、チームは勝てると確信した。愉快なことにその日の『プロ野球ニュース』(フジテレビONE)にも3塁走者・淺間の映像がなかった。解説陣(佐伯貴弘、高木豊両氏)はわざわざ時間を取って、映像なしで淺間の偽装を絶賛したのだ。これぞ、ザ・プロ野球。映像が何でも拡散され、流通する時代に胸のすく出来事だと思いませんか。