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谷内亮太が示したプロフェッショナルリズム、後輩の明日へと向かう心の糧に【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#209】

谷内亮太の引退試合を見て、誰もがきっとまだ現役でできると思ったのではないだろうか。彼のこれまでにプロ野球選手として見せてきた姿は後輩に大きな影響を与えた。

2023/09/30

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産経新聞社



日本ハム・谷内亮太

引き際の美学

 谷内亮太の引退試合(9月27日、エスコン)は不思議な試合だった。引退する谷内が2回裏、二死3塁から見事タイムリーを放ち、新庄監督の「お名残り演出」により内・外野の守備位置(5ポジション)をこなして、つまり「大活躍」のうちに途中交代したのだ。ファイターズにはその時点で他に打点を挙げた選手がいなかった。「夢をありがとうー」「まだやれるぞー」が引退試合の声援だと思うが、どう見ても谷内がいちばんやれている。「打点をありがとうー」「フツーにやれるぞー」なのだ。
 
 ファンはまざまざと「いちばん仕事のできてる選手」が引退するのを目の当たりにした。HBCラジオ情報では谷内の身体には特段、どこも故障箇所がないそうだ。僕はファンの知り得ない腰痛とかアキレス腱痛みたいな何かがあって、それで引退を決断したのだろうとイメージしていたのだ。身体が元気なら、チームに置いといて損のない選手だと思う。ユーティリティーでどこでも守れる。特にピンチの場面でしびれる守備をする。バッティングは今季こそ打席自体少なかったが、昨年は得点圏打率4割をマークし、その勝負強さでファンをうならせた。一体、なぜ引退するのか。
 
 まぁ、だけどプロ野球ではよくある話とも言える。僕は「ベテランの選手がちょうど衰えてきて、タイミングよく若手が台頭して世代交代した」なんてケースをあんまり見たことがない。だいたい監督さん(多くの場合、新監督)の方針でまだ力量の追いつかない若手が抜擢される。ベテランは「力的にはオレの方が上」と思いながら出番を減らされ、2軍暮らしを強いられ、次第にモチベーションを失ってゆく。谷内亮太は年齢的にはベテランというより中堅というところなので、尚のこともったいないと思う。
 
 が、彼らしい美学を持った引き際だった。引退試合を前に、彼は新庄監督に「代打1打席か代走」での起用を申し入れていたという。自分が守備につくと若い選手の守備機会がそれだけ減ってしまう、成長できるチャンスが失われるという意味だった。
 
「結果の後悔はしても、準備の後悔だけはしない」、これが谷内亮太の信条だ。匂い立つようなプロフェッショナリズムを感じる。結果は自分ひとりではどうにもならないものだ。相手投手の出来もあるし、風やイレギュラーバウンド等、不確定要素もある。10割打ち、10割好守し、10割勝利するわけにはいかない。が、それに一歩でも近づくために準備することはできる。プロは準備するのだ。試合前から対戦相手を想定し、シミュレーションを繰り返し、身体や道具の手入れをし、当日は身体をほぐし、気持ちをつくり、練習で感覚を確かめる。試合中は常に状況を整理し、次に起こり得ることをイメージしておく。
 
 元ファイターズ戦士、宮田輝星氏は自身のX(ツイッター)で惜別の辞を述べている。「試合前などの準備やプロとしての立ち振る舞いでたくさんご指導頂きました。本当にお疲れ様でした」(9月27日、宮田輝星氏Xアカウント、「立ち振る舞い」は原文ママ)。谷内は後輩たちにプロ意識を伝えていたのだ。

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