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結果の出ない五十幡を起用する理由。我慢しながら打線を育てる、新庄監督の思い【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#197】

オープン戦で好調だった五十幡は開幕して一変、打率低迷で苦しい日々を送っている。様々なファンの声がある中で、新庄監督はこれからを見据えた起用を続けている。

2023/04/16

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産経新聞社



なぜ転がさないのかの疑問へのアンサー

 「1点をもぎとる野球」の実働部隊は五十幡であり、上川畑大悟であり、石井一成だったと思う。これが開幕からみんな不振だった。クリンアップの「KNM砲揃い踏み」みたいな試合はドカーンと勝てばいいのだ。そりゃ中心打者が打てば勝てる。勝ち星を積み重ねるためには、五分五分か四分六くらいの試合をどう拾っていくかだ。ロースコアの競り合いに強くならなきゃいけない。よい継投をし、堅守を固め、機を見て仕掛ける。これは大駒よりも、脇役・伏兵の腕の見せどころだ。そこが足りなかった。
 
 大駒のほうは徐々に当たりが出て、自信をつけてきた。清宮幸太郎、野村佑希、万波中正は今季、大きな飛躍を遂げるだろう。その活躍は新聞の1面に載る。TVのスポーツニュースでも大きく報じられる。が、その陰に隠れて、ひそかに五十幡が手応えをつかんだ(つかみつつある?)のも注目しておきたい。もしかしたらきっかけになる試合だ。プロ生活のマイルストーンになる試合だ。
 
 僕は五十幡が不振に苦しんでるのを見て、どう解釈したらいいんだろうとずっと考えていた。これは実力がないのか。それともシーズン頭、乗り遅れて焦っているのか。「実力がない」はひどい物言いだが、中央大の(だいぶ)先輩が言ってると思ってご容赦願いたい。僕は学生時代から五十幡を応援している。
 
 「実力がない」の可能性だって十分ある。五十幡はケガがちで年数より実働が少なかった。また瞬発系の選手だから首脳陣が札幌ドームの硬い人工芝でプレーさせなかった(ケガから戻っても、壊さないように温存した)可能性もある。正味の話、「実働1年目」と言っていいかもしれない。つまり、1軍の投手の球に慣れる段階だ。まだ「実力がない」。まだ場数が必要だ。
 
 読者は五十幡のバッティングにどんな印象を持っているだろう。三振とフライアウトが多くないか。逆に四球は少ない。あれだけの足を持っているんだから「転がせばいいのに」とヤキモキしたことがないだろうか。僕はこれがずっと不思議だった。学生時代も、鎌ケ谷でも、五十幡はチョコンと流し打ちするのが持ち芸だった。もっと転がしていた。それが「実働1年目」のプロ1軍シーズン、ポイントが前目になって振りにいってる。これは何だろう。自分の持ち味を見失っているのか。それとも開幕から波に乗り遅れて、ヒットが欲しくて迎えにいってるのか。
 
 SNS上では五十幡叩きが目立ってきた。新庄監督はなぜ結果の出ない五十幡を起用し続けるのか。「トライアウト」は1年目で終わり、今年は「優勝しか目指さない」のじゃなかったか。ダメな選手は見切ってくれ。えこひいきが過ぎるとチームに不協和音が生じるぞetc。
 
 それらを見て、僕は「あー、なるほど」とヒザを打つ思いだった。新庄監督はなぜ結果の出ない五十幡を起用し続けるのか。その問題の立て方こそ、疑問の答えに違いない。五十幡が「振りにいってる」のは新庄監督の指示だろう。それができるのは今のファイターズで新庄監督しかいない。「結果はいいから、しっかり振れ」「当てにいくな、強く叩け」「チョコンと流し打ちは頭からハズせ、内角球は引っ張れ」。
 
 さっそく球団関係者にウラを取った。大体、合っていた。「打率1割の9番バッター」五十幡はまさにそのチャレンジをしていた。新庄監督は本気で五十幡を一流に育てようとしていた。
 
 まぁ、じゃなかったら代走屋として試合終盤使う(あるいはそうやって1軍の試合に慣らしていく)だろう。五十幡のもがき苦しむ姿は、新庄監督の期待に応えようと懸命に闘ってるそれだった。いつかチームに大きなベネフィットをもたらしてくれると信じる。

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