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日曜劇場『下剋上球児』原案 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル#6 なぜこの高校が甲子園に出られたのか?

2023/10/10

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菊地高弘



高校野球のあるべき姿

 それからは甲子園大会中、大会後を含めて白山の練習に何度も足を運んだ。東拓司監督や選手たちに数々の疑問をぶつけていった。だが、私は当初の目的である「なぜ白山は甲子園に出られたのか?」という疑問への核心をついた答えを見つけられずにいた。しまいには東監督から、「なんで出られたんやと思います?」という逆質問をぶつけられ、返答に困ることもあった。
 
 白山こそ、高校野球のあるべき姿ですよね―。
 

 
 取材を進めていくなかで、メディア関係者や高校野球ファンから、こんな言葉を耳にすることもあった。野球部長の川本牧子先生は大会期間中、甲子園球場を訪れるたびにスタンドのファンからこんな声をかけられたという。
 
「白山を見ていると、昔の高校野球ってこうやったなぁって思い出すんや。だから白山が甲子園に出てくれて、ほんまにうれしいんや」
 
 高校野球が「夏の風物詩」と呼ばれるほどの国民的なイベントになりえた大きな要因に、「地域性」が挙げられる。8月のお盆の時期に全国の都道府県の代表校が戦い、しかもNHKによって全試合が生中継される。いかにも郷土愛を刺激される仕組みがあるのだ。
 
 ところが、近年の高校野球は2年以上続けて甲子園に出場し続ける常連校が多く、各地区の代表校の顔ぶれがある程度固定されてきた感がある。中学時代から注目されたエリートをスカウトし、なかには「野球留学」という形で招き入れる強豪私学も珍しくない。
 
 多様化する現代の価値観に歩を合わせるように、中学生が卒業後に進む道も専門化・先鋭化が進んでいる。力量が認められた者が進む高校は自ずとスポーツに力を入れる強豪へと絞られていく。
 
 白山は、そんなエリート校とは対照的なチームだった。3年生のほとんどは志望校の受験に失敗して、行くあてがないまま白山へと入学してきている。10年連続地方大会初戦敗退。偏差値の低い底辺校。2時間に1本しか電車が来ない過疎地。そして、「リアル・ルーキーズ」のキャッチフレーズ。そのすべてが彼らの実像をとらえていたかは別にして、あらゆる情報が浮世離れしていた。平成最後の甲子園、ましてや100回大会という節目にこんな漫画のようなチームが出てしまうことに、天の配剤を感じずにはいられなかった。

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