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コロナ禍でも“密な青春”。必ず人生の財産に…仙台育英・須江航監督が語る「密の在り方」【第2回】

2022/12/05

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産経新聞社



下級生による合唱で3年生を送り出す

 11月中旬、明治神宮大会を終えてから、1、2年生は「3年生を送る会」の準備に入った。力を注ぐのが、合唱の練習だ。2018年に須江監督が始めたセレモニーであり、『糸』(中島みゆき)、『宿命』(Official髭男dism)、『ライオン』(ベリーグッドマン)と歌い続け、今年は『熱闘甲子園』のテーマソング『栄光の扉』(平井大)を歌う。
 
 選曲はすべて、須江監督によるもので、合唱の指導をするのは監督の妻・絵菜さん。仙台育英の元教員で、音楽の授業を受け持っていた合唱指導のプロフェッショナルである。
 
「練習の時間を削ってでも、大事にしている行事です。高校野球は思い出作りですから、セレモニーを大事にしたい。歌で、先輩への感謝を伝える。妻の協力がなければ成り立たない行事なので、心から感謝しています。どんな歌になるのか、私も楽しみにしています」
 
 現2年生は、夏の優勝を経験した山田脩也、齋藤陽、尾形樹人、髙橋煌稀らが残ったことで、周囲は「夏春連覇」を勝手に期待するが、「人生も野球もそんなに甘くはない」と何度も何度も言い聞かせている。
 
「2年生は誰も、連覇は意識していないと思います。チャンピオンとは思っていないし、だからといって、悲観しているわけでもない。自然体なのが良いですね」
 

 
 3年生は、大学や専門学校に向けての準備に入っている。コロナ禍を乗り越えた世代であり、これから先の人生でも、さまざまな制限の中での活動が予想される。
 
「日々の瞬間瞬間で、『こういう制限があったけど、あきらめずに工夫をして、成果を収めることができた』という経験を得られたのが、今の高校生です。困難に直面する中でも、アクションを起こして、前に進んできた。ずっと言い続けていますが、コロナ禍を乗り越えた高校生が社会に出たときには、何かものすごいことを成し遂げるはずです」
 
 さまざまな工夫のもと、“密”な日々を過ごしてきたことは、きっと長い人生における大きな財産となるだろう。
 
 コロナ禍だからこそ、多くの人の心に響いた「青春って、すごく密なんです」。10年後も20年後も、この言葉を見たときに、あの夏の仙台育英の躍動、そして須江監督の優勝インタビューが、一瞬で甦るはずだ。

書籍情報

仙台育英高の須江航監督による書籍『仙台育英 日本一からの招待 幸福度の高いチームづくり』が12月2日に発売される。今夏の甲子園で東北勢初優勝を果たし、旋風を巻き起こした注目校の指揮官が、独自のマネジメント術を明かす一冊となっている。

 

<有言実行!夢の叶え方>
基準と目標を明確化 努力の方向性を示す
選手の声に耳を傾け、主体性を伸ばす
データ活用で選手の長所・短所を〝見える化”
日本一激しいチーム内競争の先に日本一がある
高校野球が教えてくれる、本当に大切なことを学ぶ

 

著者からのメッセージ

「日本一からの招待――。2018年1月に、母校・仙台育英学園高等学校の硬式野球部監督に就任したときから、掲げ続けているチームスローガンです。すなわち日本一は勝ち取るもの以上に、招かれるものである、と。日本一を成し遂げ、また優勝時のインタビューで話した『青春は密』というフレーズがクローズアップされ、さまざまなメディアで、私たち仙台育英の取り組みを紹介していただくようになりました。ありがたいことに、『須江航』という人間にも興味を持っていただく機会が増えました。本書は、仙台育英で実践する取り組みを一冊にまとめた書籍になります」

<目次>

序章 『日本一からの招待』を果たすために
第1章 人生は敗者復活戦―思考論
第2章 選手の声に耳を傾け、個性を伸ばす―育成論
第3章 日本一激しいチーム内競争―評価論
第4章 チーム作りは文化作り―組織論
第5章 教育者はクリエイターである―指導論
第6章 野球の競技性を理解する―技術論・戦略論
終章 幸福度の高い運営で目指す“2回目の初優勝”
 


仙台育英 日本一からの招待 幸福度の高いチームづくり
須江航 著(仙台育英学園高等学校教諭、硬式野球部監督)
四六判/272ページ
2022年12月2日発売/1700円+税
 
【著者】須江 航(すえ・わたる)仙台育英学園高等学校 教諭 硬式野球部監督
1983年4月9日生まれ、埼玉県鳩山町出身。小中学校では主将、遊撃手。仙台育英では2年秋からグラウンドマネージャーを務めた。3年時には春夏連続で記録員として甲子園に出場しセンバツは準優勝。八戸大では1、2年次はマネージャー、3、4年時は学生コーチを経験。卒業後、2006年に仙台育英秀光中等教育学校の野球部監督に就任。公式戦未勝利のチームから5年後の2010年に東北大会優勝を果たし全国大会に初出場した。2014年には全国中学校体育大会で優勝、日本一に。中学野球の指導者として実績を残し、2018年より現職。19年夏、21年春にベスト8。就任から5年後の22年夏、108年の高校野球の歴史で東北地区初の優勝を飾った。

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