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モデルチェンジを繰り返して達成。セイバー視点で見る坂本勇人2000本安打到達の軌跡【データで解く野球の真実】

2020年11月8日、巨人の坂本勇人が2000安打を達成した。31歳10か月での達成はNPB史上2番目の若さ、1783試合での達成は8位のスピード記録とのことである。今回はセイバーメトリクスの視点で、坂本がどのように自らの打撃を改造し2000本安打に到達したかについて迫ってみたい。

2020/12/11

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Getty Images, DELTA・八代久通



20代前半は「量」、後半は「質」で安打を積み重ねる

 イラストは坂本の青い折れ線がシーズン試合数、オレンジの棒が安打数を示している。この推移を見ると、坂本は高卒2年目にあたる20歳のシーズン以降、毎年安定して150安打前後を記録し続けていることがわかる。
 

 
 出場試合数に注目すると、20代後半以降は減少傾向にあるが、安打を重ねるペースはそれ以前から変わらず維持している。20代前半は出場機会の量、20代後半以降は出場機会の減少をパフォーマンスの質で補うかたちで安打を量産していたようだ。キャリアを通じて長期離脱したシーズンはなく、頑丈さと安定感がスピード記録達成を支えた最大の要因と言える。
 

 

3つの打者タイプを経てたどり着いたより長打に特化したスタイル

 安定して安打数を積み重ねた坂本だが、ほかの打撃指標に目を向けると、キャリアを通して打者として変化を続けていたことがわかる。
 
 イラストは坂本のK%(三振/打席)やBB%(四球/打者)などの打撃指標の年度別推移を表している。ここでは単純にその指標の値を見るのではなく、リーグ平均(投手除く)を1とした場合、坂本がそれに比べてどれだけ優れていたかを示した。1を上回れば坂本の値がリーグ平均より優れていることを示す。三振割合を表すK%のみ、低いほど優れた指標であるが、ここでは値を反転させたため、すべての指標においてグラフの位置が高いほど優れた打者ということになる。今回は坂本がレギュラーに定着した2年目の2008年以降の推移を見ていく。
 

 
20-24歳(2008-2012年)
 24歳までの坂本は、打者の長打力を示すISO(長打率-打率)、そしてK%で優れた値を記録している。長打力と三振の少なさが武器の中距離打者であった。三振と四球の少なさから、積極的にスイングすることによって多くの安打、長打を生み出していた様子がわかる。
 
 イラスト内に水色で示したBABIP(※1)とは、本塁打を除くインプレー打球(邪飛含む)が安打になった割合を表す指標だ。BABIPは運の要素が大きく絡む不安定な指標で、1年程度では選手の能力が大きく反映されない指標である。しかし打者視点の場合、サンプルサイズが大きい数年単位で見ると、芯で捉える能力や打ち損じの少なさ等の影響が表れる。今回はサンプルサイズの大きいキャリアレベルの話をしているため、BABIPを「巧打」の力を表す指標として位置づけた。
 
 坂本のBABIPも年度ごとに上下しているが、この20-24歳の期間における通算はリーグ平均をやや上回っている。
 
 積極的なスイングで巧打より長打に強みを持つこの頃の坂本の打撃傾向は、同じ巨人の遊撃手・二岡智宏の全盛期と重なっていた。
 
25-27歳(2013-2015年)
 20代半ばの坂本は赤色で示した長打力を表すISOの折れ線が下っている。20代前半に比べてやや長打力が失われていたようだ。ただ一方、四球の割合を表すBB%が大幅に上昇している。三振を表すK%では依然として優秀さを保っており、積極的にスイングするタイプから、ボールを選んで四球をもぎとるタイプにモデルチェンジした様子がわかる。近年の遊撃手では、鳥谷敬(現ロッテ)が優れた選球眼で1000四球を達成している。この時期の坂本は鳥谷のようなタイプに近かった。
 
28-30歳(2016-2018年)
 28-30歳の坂本は、25-27歳で身につけた選球眼を維持しつつ、20-24歳の頃に見せていた長打力が復活している。BABIPも平均的な打者を大きく上回っており、三振が少なく、四球を多く選びながら、巧打・長打力ともに秀でた万能打者へと成長した。25-27歳の頃は長打が減少し、打者としてのキャリアが不安視されていたが、この期間は打者として完成するために必要な期間だったようだ。
 
 遊撃手として稀有な打力を発揮した坂本だが、この期間の坂本に類似した打力を見せた遊撃手が存在する。かつて西鉄ライオンズで活躍した豊田泰光だ。豊田が活躍した1950年代のパ・リーグは平均打率が.240台、OPSは.650前後の超打低時代であった。豊田はその中で打率.280-.300、OPS.850-.900を継続的に記録していた。当時としてはリーグバランスを壊してしまうほどの影響力である。こうした打てる遊撃手がリーグ全体に与える脅威は、時代の変わった現代で坂本が示している。
 
31-32歳(2019-2020年)
 2019年以降、30歳を越えた坂本は、緑で示したK%の折れ線が下っている。これまで少なかった三振が増えたということだ。そのかわりに長打力の水準がさらに上昇した。28-30歳の万能タイプから、より長打に特化したタイプにシフトしつつあるようだ。三振は増加したもののリーグ平均程度の水準を保っており、大きなマイナス要素にはなっていない。長打の増加で相殺できるレベルで、総合的にはリーグ上位の打撃力を維持している。
 
 
 2000安打を達成するまでの坂本をデータで振り返ると、期間によって異なる打者像を見せていたことがわかる。奇妙な表現だが、坂本は変化しながら安定して安打を積み重ねた打者であるようだ。来季以降の坂本も、2000安打までとはまた違ったタイプとなり2500安打や3000安打へ歩みを進めることになるかもしれない。「変化」と「安定」を両立する坂本から、今後も目が離せない。
 
(※1)BABIP=(安打-本塁打)÷(打数-三振-本塁打+犠飛)
本塁打を除くインプレー打球が安打となった割合を表す。BABIPの高低は能力による部分が小さく、多くの打席数を経ればBABIPの値はほとんどの選手がリーグ平均値付近におさまること、したがって年度ごとの変動は運の影響が大きいことが明らかになっている。このため極端に高いまたは低いBABIPは翌年以降平均値に回帰していく傾向がある。ただし打者は投手に比べ運の影響が小さく、回帰の傾向はやや弱まる。
 
(※2)年齢はすべてその年の12月31日時点。
 
DELTA・八代久通
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。