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プロ野球でも、技術指導以外に求められる人間教育。高校生指名から問われる球団の姿勢

今年のドラフト会議でも上位で高校生が指名される可能性が高い。ここ数年は田中将大、藤浪晋太郎、大谷翔平ら高卒1年目からチームの中心選手として活躍するケースはあるが、こういった道を歩む選手はごくわずかだ。基本的には数年後を見据えた指名になるが、その選手の"伸びしろ"に期待する場合、球団側にもその選手をどのように育てていくのか。確固たる未来図が求められる。

2014/10/15

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技術だけではメシを食えないのもプロの世界

 技術以外の部分にはこんなこともある。

 松本は今夏の岩手県大会の決勝・花巻東戦で三塁へ偽投。ボークを取られて失点するというシーンがあった。
 本人に訊くと「サードに三塁けん制のサインを送ったのをサードが見逃した」ということで、三塁手がベースに入っていないミスでもあったのだが、スタンドで観ている限りではそれはわからない。

「ピンチで冷静さを失い、今春から三塁への偽投が禁止になったのを忘れた」ととらえるスカウトもいる。

 高橋は1月に利き手である右手の親指を骨折。バント練習中に当てたのが原因だが、「(右手保護の)ガードが壊れていてなかった日で、その1球目で当たりました」と細心の注意を払っていれば防げたケガだった。

 松坂大輔(メッツ)は風呂に入る際、投げるほうの右手の指先はお湯につけない、缶飲料を飲む際にも右手ではプルトップをあけないなど投げる手には人一倍気を遣っている。

 投手ならカバンを肩にかけるときは利き腕と逆側の肩にかけるのが当然だが、常葉菊川時代の田中健二朗(DeNA)は左腕にもかかわらず左肩にカバンをかついでいた。こういう細かい部分にこだわれるかが将来の成長へのカギとなる。

 安樂、松本はひじ痛という不安も抱えている。故障歴、現在の状態も入念な調査が必要になる。ここもスカウトの腕の見せどころだ。

 もちろん、性格や言動もチェックの対象になる。

 今秋の候補でいえば、星稜・岩下大輝が夏の甲子園で敬遠の際、観客からのヤジに反応して、3-0から自分の判断で勝負しにいった(結果はボールで四球)。大分・佐野皓大はテレビで「155キロを出したい」と宣言。スピードにこだわり本来の投球ができなかった。

 もっとも、こういった性格的な部分は変えられる可能性がある。
 智弁和歌山時代の西川遥輝(日本ハム)はグラウンドでスカウトが視察しているにもかかわらず、平気で手を抜いて練習をするような選手だった。
 試合でも一塁までまったくといっていいほど全力疾走をせず、スカウト陣が「走らないから(一塁駆け抜けの)タイムが取れない」と嘆いていた。

 それが今やレギュラーで盗塁王。一塁への駆け抜けは高校時代以上に一生懸命走っている。
 日本ハムは若手選手向けに講義や講演会を行う他、読書の時間を設けたり、野球ノートの提出を求めたりと人間教育にも力を入れ、やはり高校時代に喫煙など問題の多かったダルビッシュ有(レンジャーズ)も一流に育てている。

 一方で、入団前に無免許運転での速度超過をした千葉国際・相内誠(西武)は1年目のオフにも未成年での飲酒・喫煙の問題を起こした。

 過去にも敦賀気比時代に無免許で事故を起こした仲沢忠厚(元ソフトバンク)、センバツでサヨナラ本塁打を放つなど準優勝に貢献しながら寮の規則違反で夏はベンチ外となった済美・高橋勇丞(元阪神)らがいたが、彼らは活躍できないまま球界を去った。

 技術がなければ生き残れないのがプロの世界だが、技術だけではメシを食えないのもプロの世界なのだ。

 ちょっとした動作や態度、取り組む姿勢から選手の性格を想像するのもスカウトの仕事。
 そのうえで「これなら教育できる」「この性格では無理」と判断する。そこに球団の方針なども加わって、最終的に指名するか否かが決まる。

 技術だけではなく、人間も評価するのかどうか。
 多少問題があっても、球団で教育しようという姿勢があるかどうか。指名、そしてその後の対応で球団の体質も見えてくる。

 高校生はまだ10代の子ども。だからこそ、人間教育がまだ間に合うともいえる。

 こんなところに注目すると、ファンもドラフトに対する見方が変わってくるのではないだろうか。

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