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下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル#2 絶望的な異動

2018年夏の甲子園に初出場した三重県立白山高校。10年連続県大会初戦敗退の弱小校。「リアル・ルーキーズ」のキャッチフレーズ……。そんな白山高校がなぜ甲子園に出場できたのか。 3/7発売「菊地選手」渾身の一作「下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル」から第一章を公開する。

2019/03/01

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菊地高弘

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絶望的な異動

 校長に呼び出された東拓司は、希望を胸に校長室へと向かっていた。
 
 三重県の教員採用試験に合格して、初任となった上野高校では4年目の夏に三重大会ベスト4と結果を残していた。上野への愛着はもちろんあったが、公立高校に勤める教員にとって異動はつきものである。
 
――上野は進学校で勉強の制約もあるし、グラウンドも狭い。どうせなら、思いっきり部活ができる学校に行きたいな。
 
 東はそんな希望を書類にも書いて提出しており、校長も「任せとけ!」と力強く応えてくれていた。その日、校長によって異動先が東に告げられることになっていた。
 
 ところが、校長室に入った東を待っていたのは、校長からの意外な一言だった。
 
「東くん、すまん。キミの野球人生を終わらせてしまった……」
 
 言葉を失った。異動先は「白山」だった。1年前の夏、自分が率いる上野と初戦で対戦して、コールドで勝っているチームだ。知り合いでもある若い監督が悪戦苦闘しているとは聞いていたが、その監督も今やトラブルに巻き込まれ謹慎中だという。
 
 視界に黒みがかった靄(もや)が立ち込めてくるようだった。29歳で教員採用試験に合格した東は、35歳になっていた。これから高校野球の指導者として脂が乗っていく時期。そんな大事な時期の異動先は、ただ野球部が弱いだけでなく、教育困難校として悪評が立つほどの白山なのだ。
 
 絶望感を覚えた東だが、同時に校長の「すまん」という物言いにも引っかかりを覚えていた。まるで、はじめからあきらめているような口ぶり。それは教育者としての自分が否定されているようにも感じられた。
 
――よう見とけよ!
 
 東は内心、そう毒づいていた。白山だろうがどこだろうが、自分はやってやる。苛立ちや悔しさをエネルギーへと換えたはずだった。

【次ページ】暗澹たる状況
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