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二軍最強打者と甲斐をも超える強肩捕手の交換。ロッテ-中日間のトレードをデータから考察する(加藤翔平⇔加藤匠馬)

2021/06/18

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中日は外野手の攻撃力不足が課題

 まず中日の視点から見ていこう。中日は現在、外野手の極端な攻撃力不足に陥っている。レギュラー格だったソイロ・アルモンテが昨オフに退団し、マイク・ガーバーを獲得するもここまでは不発。復調が期待された平田良介は、今季さらに状態を落とし、故障で二軍戦からも遠ざかっている。
 
 具体的に中日外野手の攻撃力がどの程度にあるのか確認してみよう。イラストに示したのはポジション別wRAA(※1)という打撃指標だ。この指標は各ポジションのリーグ平均的な打者が同じだけ打席に立つ場合に比べて、どれだけ得点を増やしているか、減らしているかを表したものだ。0.0であればリーグ平均レベル。5.0であれば、同ポジションの平均的な打者が打席に立つ場合に比べ、チームの得点を5点増やしていると考えられる。


 
 これを見ると、中日は捕手と一塁を除き、ほとんどのポジションでリーグ平均を下回る攻撃力にとどまっているようだ。そしてその中で外野は特に大きなマイナスを生んでいる。外野は3ポジション合計で-38.3。リーグ平均の外野に比べて、約38点チームの得点を減らす攻撃力と評価できる。大島洋平が主に守る中堅手はほぼ平均レベルのはたらきだが、左翼は-14.3、右翼は-21.1と極めて大きな損失を生み出してしまっているようだ。
 
 ただこれは逆に考えると上積みの余地があるということだ。リーグ平均レベルの攻撃力をもつポジションにリーグ平均レベルの打者を補強しても攻撃力に変化はない。しかしこれだけ大きな損失を生むポジションであれば、リーグ平均レベルの選手が加わるだけでも大幅な戦力アップを見込める。
 
 そこで中日が今回獲得したのが加藤翔だ。加藤翔は入団1年目から高く評価された外野の有望株だったが、チャンスを掴みきれぬまま29歳を迎えている。近年はレオネス・マーティンの加入、藤原恭大など若手の台頭もあり、チーム内での起用優先度も低くなっていたところだった。
 
 そんな加藤翔だが今季はここまでファームで凄まじい打力を発揮している。ファームでは126打席に立ち、打率/出塁率/長打率で.369/.444/.586を記録。総合打撃指標のwOBA(※2)で見た場合、100打席以上に立ったファーム89打者のうちトップの.482を記録している。現状のファームにおける最強レベルの打者を獲得できたといっていい。
 
 たたその獲得に支払うコストは適切なものだっただろうか。中日は加藤翔獲得に加藤匠を譲渡している。加藤匠は2019年にはチームの主戦を務めた実績のある捕手だ。ただ中日では昨季から木下拓哉が捕手のレギュラーに定着。ディフェンス面で極めて評価の高い木下だが、攻撃面も素晴らしく、先に紹介したポジション別wRAAで見ても、中日の捕手はリーグ最高の攻撃力を見せている。2番手以降の捕手に付け入る隙は小さそうだ。また中日では若手捕手の石橋康太も順調に実力を伸ばしており、将来的な捕手に対する不安も小さい。余剰となった戦力で、弱点のポジションに期待値の高い選手を獲得する理想的なトレードを行えたのではないだろうか。
 
(※1)ポジション別wRAA:同じ打席数をリーグの平均的な打者が立つ場合に比べて、チームの得点をどれだけ増やしたか、または減らしたか。算出にあたっては、まず各チーム各ポジション選手の打撃成績をセイバーメトリクスの手法で得点の単位に換算し、それを比較することで算出される。
(※2)wOBA(weighted On-Base Average)
出塁力、長打力の両面を考慮した1打席あたりの総合的な打撃貢献を測る指標。

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