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打撃の神様・川上哲治の時代に セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1939-40年編~

2021/02/05

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Getty Images, DELTA・道作



1940年のNPB

チーム  試合 勝率 得点 失点 得失点
巨人   104 .731 439 221  218
阪神   104 .634 400 240  160
阪急   104 .616 317 248  69
翼    105 .589 344 298  46
名古屋  104 .586 334 279  55
黒鷲   104 .460 275 335  -60
金鯱   104 .351 310 425  -115
南海   105 .283 242 424  -182
ライオン 104 .240 225 416  -191
 

 
 1940年、NPBのリーグ戦はついに100試合を超える長丁場となった。このレベルの試合数であれば、スタッツの体感もかなり現代と近いものになってくる。ベスト10ではwRAA42.0を記録した川上が前年に続き1位となった。wRAAのほかにも9本塁打、長打率.485でリーグトップを記録。1939-41年の3年間はまさしく川上の全盛期とみなすことができる。1942-45年の、戦争による4年間のブランクは非常に残念なことである。

 ちなみにこのランキングで取り上げているwRAAをオールタイムで通算した場合、川上の値は519.7となる。この値はNPB歴代で9位の値。4年間のブランクがなければ、トップ5にランクインできた可能性があった。
 
 この年の2位は鬼頭数雄(ライオン)。この時代の左の強打者らしく、リーグトップとなる13本の三塁打を放っている。124安打、打率.321で最多安打と首位打者に輝いた。ちなみに統計学の二項分布でこの年の打率.321を測定した場合、この鬼頭の打率.321はほかの打者の打率からの傑出度としては、「歴史上最もあり得ないほど傑出した首位打者」のベスト10に入るほどの数字である。このベスト10に1リーグ時代の選手は彼1人であった。
 
 3位の白石は相変わらず82個と多くの四球を獲得している。ただ白石を上回る83四球で最多をマークしたのが吉原正喜(巨人)。吉原は捕手であったが、捕手での最多四球は野村克也(南海)が1966年にマークするまでこれが唯一の例であった。4位の千葉茂は出塁率.404がリーグ1位。戦後も一貫して巨人の得点源であった。10位の中島治康(巨人)が67打点で打点王を獲得。出塁率は.323と高くないままだが、長打率は.383でリーグ3位をキープして、千葉らの出塁を得点につなげた。
 
 ベスト10圏外の注目選手ではミスター二刀流とも呼ぶべき野口二郎(翼)を取り上げる。規定到達55人中28位とちょうど中位の打撃貢献であったが、この年は投手として規定投球回をクリア。33勝を挙げ防御率はなんと1位だった。翌年も二刀流で防御率1位のうえ、2年後には史上最多の19完封で40勝を記録している。1946年の阪急在籍時には打者として当時のNPB記録となる31試合連続安打をマーク。この記録は1971年に同じ阪急の長池徳二に更新されている。4番投手での先発はもちろん、捕手と遊撃以外の守備位置はすべて守った経験を持ち、投打同時の規定クリアは6シーズンを数えた。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 

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