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野村克也が戦後初の三冠王に セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1965年編~

2020/07/09

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Getty Images, DELTA・道作



1965年のセ・リーグ

チーム   試合 勝率 得点 失点 得失点差
読売    140 .659 536 404  132
中日    140 .566 510 431  79
阪神    140 .518 393 394  -1
大洋    140 .493 518 470  48
広島    140 .434 394 451  -57
サンケイ  140 .326 332 533  -201
 

 
 王貞治(読売)の全盛期がはじまったとあって、これまでには見たこともないような数字が並び始める。wRAAの86.2、wRAAの勝利換算(※2)10.2はいずれも歴代新記録。ほかの年代ではリーグトップの選手でもこの年の王の半分に届かないシーズンも見られる。それほど図抜けた恐ろしい数字である。非日常のスタッツがこれからほぼ10年間続く。ライバルチームにとって恐怖の時代は始まったばかりである。

 2位の江藤慎一(中日)も絶好調の1年であった。勝利換算で7.3の利得は通常の年代であれば余裕のリーグトップでおかしくない数字。本人としてもキャリア中最大の数字であった。中日球団としても2006年の福留孝介がwRAAでは更新したが、勝利換算では球団最高としていまだに残っている。
 
 3位長嶋茂雄(読売)以下も常連に近い選手が並んでいる。近藤和彦(大洋)や山本一義(広島)といった選手は、打率や本塁打といった旧来の指標では評価しにくい対象の代表例だろう。広島の興津立雄は3回目のランクインとなる。当時の広島は出塁にも長打にも偏らない選手が交代で中心打者を務めており、特に突き抜けた打撃成績とは見えないことから存在の地味な選手が多かったようだ。
 
 注目の選手は吉田義男(阪神)。古い時代の記録から一定の精度で守備力を推測できる唯一の指標といえるRRF(※6)において、歴代最高のスコアを挙げた遊撃手である。この年の攻撃力は例年同様に水準程度であったが、珍しい記録を残している。この年の吉田の打点は12。これは2リーグ制以降の規定打席到達者中、最少の記録である。4本塁打で12打点であるため、1年間で自分以外の走者を8人しか生還させていないことになる。偶然の作用が相当に大きい珍記録ではあるが、おそらくは投手が打席に入るリーグの1番打者にしか更新のチャンスはない。1982年に松本匡史(読売)が同数を記録し、2012年に大島洋平(中日)があと一歩まで迫ったが未だ更新されていない。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
(※6)Relative Range Factor:9イニングあたりにどれだけのアウトに関与したかを表すRange Factorをより進化させた指標。多くのアウトをとることで野手を評価するRange Factorの考え方をベースにおきながら、その欠点を補う補正(投手陣の奪三振の多さに対する補正、ゴロ/フライ傾向への補正など)を行っている。これにより古い時代の記録からでも、選手の守備力をある程度把握することが可能になった。
 
DELTA・道作
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 

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