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豊田・中西による伝説の首位打者争い セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1956年編~

2020/06/15

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Getty Images, DELTA・道作



1956年のセ・リーグ

チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
読売  130 .646 568 351  217
大阪  130 .612 386 283  103
中日  130 .569 369 319  50
国鉄  130 .485 346 405  -59
広島  130 .358 344 491  -147
大洋  130 .331 319 483  -164
 

 
 世代交代が進行したシーズンとなった。与那嶺要(読売)がwRAA2度目のリーグ首位となっている。それも前年同様に2位以下をかなり離してのものとなった。あまりにも飛ばないボールを使用していたため、20本塁打以上を記録したのが青田昇(大洋)の25本のみ。このように長打力を発揮しづらい状況では出塁系打者の独壇場となるのは自然なことかもしれない。初登場でwRAA26.6を記録し4位に入った吉田義男(大阪)をはじめ、スピード・出塁系打者のベスト10への進出が目立つ。プレーの環境が選手の生き残りにも多大な影響を与える好例である。

 6チーム中5チームが年間総得点300点台。ディフェンスのよかった大阪にいたっては年間総失点がわずか283点、得点とあわせて669点など、現代の常識からは考えられない低い得点が並ぶ。なかなか動かない試合は多かったのではないかと想像するが、同時代のファンからは普通に受け入れられていたようである。
 
 2位にはwRAA40.5で田宮謙次郎(大阪)がランクイン。川上哲治(読売)、藤村富美男(大阪)らの年代と長嶋茂雄(読売)の年代の合間の微妙に地味な年代に出てきた選手だ。後年毎日に移籍するが、結局毎日は早々とプロ野球界から撤退してしまう。もし人気球団であるタイガースにとどまっていれば、引退後の露出ももう少し多かったのではないかと思える選手だ。3位には川上がランクイン。7位の青田昇とともにベテランとなってなお存在感を示しているが、これが最後のベスト10入りとなる。川上は2リーグ制になってからのwRAA首位が一度もない。キャリアを振り返ってみると、全盛期は1リーグ時代にあったと考えている。
 
 変わった選手として注目したいのが規定打席に届かなかったため圏外とした岡嶋博治(中日)である。打率.247、本塁打6、打点23と打撃3部門のスタッツではとても強打者には見えないが、四球や二塁打・三塁打など、これ以外の部分での得点貢献が大きく、この年も358打席ながらwRAAは16.2と平均を大きく上回る成績を残している。
 
 強打者に見えづらい理由は岡嶋のタイプだけでなく、前述したように投高打低時代ゆえにスタッツが伸びづらかったことも理由としてある。しかし四球を獲得した忍耐力、意外な長打力によってこの後、リーグトップ5に2度食い込んでくる。四球に至っては翌年から3年連続リーグ最多を記録した。時代や環境の違い、採用する指標の違いにより大きく見え方が異なることを体現する選手である。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 

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