大谷翔平選手をはじめとした日本人メジャーリーガーを中心にメジャーリーグ・日本プロ野球はもちろん、社会人・大学・高校野球まで幅広いカテゴリーの情報を、多角的な視点で発信する野球専門メディアです。世界的に注目されている情報を数多く発信しています。ベースボールチャンネル



「あのケガがあったから今があります」。幻の天才打者・朝山東洋の仕事――カープ出身の指導者たちが語る「カープの育成術」#4

V奪還を目指し新体制となった広島東洋カープ。佐々岡真司新監督をはじめ、カープ出身の指導者たちが語った一流選手を育てる「カープの育成術」とは。カープ戦実況歴20年、長年カープを見てきた中国放送(RCC)アナウンサー・坂上俊次氏の新刊『「育てて勝つ」はカープの流儀』から一部抜粋で公開。

2020/03/10

text By



あのときのガムシャラが今はわかる

 1995年、朝山はドラフト3位でカープに入団した。そのころは、まだ体に不安もなく、考える余裕もなく猛練習に汗を流していた。ただ、ガムシャラな日々であった。
 
 同期入団は、新人王に輝く山内泰幸、打者転向で首位打者となった嶋重宣、メジャーでも活躍した高橋建、500試合登板の横山竜士、大瀬良大地獲得に汗を流したスカウトの田村恵らである。いわゆる、当たり年だった。朝山も、久留米商業高校で通算29本塁打、将来を期待される強打者であった。みんな、同じ時間を過ごしてきた。当時の二軍監督は安仁屋宗八である。練習は、やはり厳しかった。
 
「ランニング系のメニューはすごかったです。体操なしでいきなり、アップとして2時間走ることも珍しくありませんでした。ふくらはぎが切れるかと思いました。2年目以降は覚悟しているので、準備をしてキャンプに臨みますが、準備しても準備しても追いつきません。(キャンプ1日目が終わった)2月2日には、全身筋肉痛でした」
 
 もちろん、安仁屋の太陽のような愛情もたっぷりと浴びてきた。それだけに、朝山は、理論派コーチでありながら、どこか豪快な安仁屋的なコミュニケーション力を持つ。
 
「厳しさもあり、おおらかでもありました。マイナス思考はやめよう。消極的な姿はやめよう。逆に、積極的な失敗はOK、失敗しても責任は監督がとる。安仁屋さんは、そんな雰囲気でした」
 
 チームの空気は明るいが、練習は猛烈に厳しい。「ムチャクチャや」と、10歳代の青年が思ってしまうのは無理もない。しかし、今、指導者になった朝山は、あの時間の重要性を強く実感している。
 
「あれは、一理どころか二理も三理もありますよ。正直、走ることの大事さがわかったのは、現役生活を終えてからでした。いつでも走れると思って野球をやってきて、僕は28歳で引退しました。今、30歳代後半の選手を見ていると、衰えは足からくるのだと感じることが多いです。走らなくなったら終わりとよく言われたものですが、そのとおりです。同学年の新井(貴浩)だって、よく坂道ダッシュをしていました。だから、長く活躍できたのだと思います」
 
 だから、今、朝山は選手のウォーミングアップを注意深く見つめる。
 
「アップでわかります。しっかりやっているか適当にやっているかは、そのあたりです。カープはアップにうるさいチームだと思います。昔ほどハードではないかもしれませんが、やるべきことはしっかりやっています。それだけに、選手の取り組み方は大事だと感じます」
 
 精密な打撃理論はあっても、それは魔法ではない。選手には、強固の土台が求められる。時代が変わっても、揺らがない真理である。
 
 
カープはいかにして一流選手を育て上げるのか。――カープ出身の指導者たちが語る「カープの育成術」#1
佐々岡監督が強調する “一体感”とは。大エースの静かなる船出――カープ出身の指導者たちが語る「カープの育成術」#2
よみがえる安仁屋イズム。受け継がれる練習量――カープ出身の指導者たちが語る「カープの育成術」#3
笑顔ある猛練習。倉義和が捕手を鍛え上げるために続ける工夫――カープ出身の指導者たちが語る「カープの育成術」#5

書籍情報


『「育てて勝つ」はカープの流儀』
定価:本体1600円+税
 

【内容紹介】
球団創立70年 強さの礎は、いつの時代も変わらず
 
名選手を輩出する土壌、脈々と受け継がれる“育成術”
カープ戦実況歴20年の名物アナウンサーが徹底取材
 
「猛練習」「工夫」「チームワーク」「愛情」
カープはいかにして、一流選手を育て上げるのか?
 
球界でも定評のあるカープの育成術に迫る
 

これまで、カープでは多くの選手が育ってきた。ドラフト下位指名であっても、猛練習でトッププレーヤーになった例も少なくない。外国人選手も、カープにやってきて才能が開花したケースが目立つ。 どんな人材が大きく成長するのか。また、カープはいかにして、一流選手を育て上げるのか。その方法論に迫るのが、本書の狙いである。
 
1960~70年代の猛練習。1990年代、野村謙二郎・金本知憲、前田智徳、そして佐々岡真司が背中で伝えたプロ意識。そこから、猛練習と工夫のハイブリッド世代。成長に近道はあるのか、遠まわりこそ学びの要素が多いのか、はたまた第3の道があるのか。カープの歴史を彩った指導者の話に耳を傾けたい。
 
アマゾンなどで発売中です↓
「育てて勝つ」はカープの流儀
 
【著者紹介】
坂上俊次(さかうえ しゅんじ)
中国放送(RCC)アナウンサー。1975年12月21日生まれ。兵庫県伊丹市出身。1999年に株式会社中国放送へ入社し、カープ戦実況歴は20年になる。スポーツ中継のほかに、ラジオ「それ聴け Veryカープ」、テレビ「Eタウンスポーツ」などを担当。また、中国地方をスポーツ関連産業で盛り上げるためのプロジェクト「ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク(スポコラファイブ)」の座長を務める。著書に『カープ魂 33の人生訓』『惚れる力』、(サンフィールド)、『優勝請負人』(本分社)、『優勝請負人2』(本分社)があり、『優勝請負人』は、第5回広島本大賞を受賞。現在「デイリースポーツ広島版」「広島アスリートマガジン」で連載を持っている。

1 2