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「カメラを止めろ!」と激高……あえて“負け”を描いたベイスターズ――ファンとの距離を縮める映像の力

横浜DeNAベイスターズ公式ドキュメンタリー映像作品第6弾となる『FOR REAL-遠い、クライマックス。-』が、12月14日より劇場公開(2019年1月2日、DVD・Blu-ray発売)される。DeNAベイスターズはなぜ、これほどまでに映像作品へ注力するのか。ファンにどのような思いを発信していきたいのか。制作者側の想いを聞いた。

2018/12/14

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横浜DeNAベイスターズ



“素材”集めは、どこの球団よりも力を入れている自負

 バックヤードでカメラをまわす難しさ。当然、選手からすれば触れられたくはない部分が赤裸々になる。だが振り返ってみればDeNA体制となった7年前から球団はベンチやブルペン、ロッカールームで積極的にカメラを回し続けている。ロペスのフォローからもわかるように、選手たちは本来なら存在しない場所にカメラがあることを十分に理解している。また所属選手ばかりではなく、今シーズン途中にチームに加入した伊藤光のような選手にも、DeNAベイスターズの映像に対する取り組みは浸透していた。入団会見の前、控室にカメラがいることを認め、「ああ、(DeNAは)こういう風なことやっているんですよね」と、当たり前のように言ったという。
 
 辻本監督もまた自分が思う以上に最初から選手たちに受け入れられたことに驚いたという。日を追うごとに選手たちとの関係は密となり、辻本監督はファミリーの一員になっていった。だからこそ、選手のためチームのため、深く哀しみ挫折する姿をも記録して、苦しみを伴ったとしても伝えていこうと覚悟した。
 
 そんな多くの人たちの想いが詰まっているからこそ、本作はチームの深淵を覗くようなリアルさに満ちている。
 
 これらのことを鑑みてDeNAベイスターズにとって映像とは、まさに“文化”だと言っていいだろう。
 
『FOR REAL』のよう長編作品のみならず、球団公式YouTubeでは節目節目で必ずオリジナル映像を公開している。ときには新コーチ就任や、外国人選手の残留を知らせる映像も制作した。また、ファンの目に触れることはないが、昨季は勝負所となるタイミングでキャプテンの筒香嘉智が選手たちのモチベーションを上げるための映像制作を球団に依頼している。
 
 映像との向き合い方について、球団の担当者である里見夏生氏は次のように語る。
 
「日々“素材”を集めるという点においては、スチール写真も含め、どこの球団よりも力を入れている自負はありますし、当然、素晴らしい素材があるからこそ、いいものを作らなければいけないといった使命感もあります。メッセージ性の高いSNSなどを通じ、ファンの方々に大きなインパクトを与えていることは理解しているので、球団としては映像というコンテンツを今後も大事にしていきたいと思っています。ただ、チームのアピールという点において映像ばかりではなく、今後は多角的に違う方法も模索していきたいと思っています。とにかくファンの方々に喜んでもらい、よりチームを身近に感じてもらえるものを作っていきたいですね」
 
 さて、改めて今回の『FOR REAL-遠い、クライマックス。-』だが、シリーズ史上最も重く、息苦しい作品であることは間違いない。ただ影が濃ければ濃いほど、光りや希望はより輝きを増す。新人王の東克樹や復活を遂げた三嶋一輝、ホームランキングになったソトなど活躍した選手はもちろん、ブレることなく仲間を鼓舞しつづけた筒香嘉智の存在はチームに“救い”を与えていた。
 
 そして何があろうとポジティヴだったラミレス監督が、この3年間で初めて見せた動揺をする姿……。そこには“絶望”ではなく、“再生”があるような気がしてならなかった。
 
 影と光が交錯する、むき出しの人間ドラマ――DeNAファンのみならず野球ファンにも、このプロ野球の世界を生きる者たちを描いた極上のドキュメンタリー作品をぜひ目撃してもらいたい。

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