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指導者は「人を見て法を説け」。野村克也氏が阪神・藤浪晋太郎に伝えたかったこと<再掲載>

野村克也氏が11日、虚血性心不全により84歳で死去した。現役時代は戦後初の三冠王(1965年)に輝き、引退後はヤクルトを3度の日本一に導いた名将。現代の野球観にも多大な影響を与えた唯一無二の存在だった。 また指導者としても、数多くの名選手を育て上げてきた手腕は、今なお求める声が大きい。“ノムさん”が日本野球の行く末を憂い生前に残した言葉には、未来につながる気づきが詰まっている。2018年6月22日に配信した「本来持っているはずの実力を発揮できないでいる選手を再びよみがえらせる方法」のインタビューを再掲載する。

2020/02/12

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藤浪晋太郎が長い不振に苦しんでいる理由

「人を見て法を説け」――私が選手を指導する際、もっとも心がけていることだ。
 
 選手の考え方は十人十色。全員が同じ言葉、同じ指導で良しとなるはずがない。その選手の持っている性格や気質などでかけるべき言葉を使い分けてやる気を促すのも、指導者の果たすべき務めなのである。
 
 今、世の阪神ファンが心配していることの1つに、先日、407日ぶりに白星を挙げた「藤浪晋太郎が完全復活できるかどうか」が挙げられる。
 
 藤浪は大阪桐蔭高校のエースとして、2012年の甲子園大会の春夏連覇を果たした。当然、この年のドラフトの目玉選手の1人に挙げられていたが、縁あって阪神への入団が決まった。
「これで10年から15年はピッチャーに困らない」――そう安堵した阪神ファンも多かったに違いない。
 
 そして藤浪は周囲の期待通り、入団1年目から即戦力の働きを見せた。13年は10勝を挙げ、その翌年以降も11、14勝と、3年連続で2ケタ勝利をマーク。周囲の期待通り、順調に大投手への階段を登っている……かのように見えた。
 
 だが、16年に7勝で終わると、昨季はわずか3勝、今年は一軍と二軍を行ったり来たりで、6月15日の楽天戦で7回途中まで無失点に抑え、ようやく今季初勝利を飾った。
 なぜ彼はこのような低迷を招いてしまったのか。それは藤浪に対して「人間教育」が行われていなかったことに尽きる。
 
 たしかに彼の高校時代の実績は十分だ。当時のドラフト候補選手と比較しても、藤浪は間違いなくトップクラスの選手だったし、入団から3年目までは順調に成長しているように感じていた。
 
 その藤浪が今伸び悩んでいる。現在も立ち止まったままで、復調の兆しがない。技術的な原因を挙げるならば、「ピッチングフォームをいじりすぎてしまった」点にある。
 
 彼は入団1年目から踏み出した足のつま先が内側に入ってしまう、いわゆる「インステップ」であることを指摘されていた。
 
 ピッチャーがバッターに向かって投げるとき、踏み出した足のつま先はホームベースと真っすぐになっているとコントロールが安定しやすくなる。だが、踏み出した足のつま先が内側に入ってしまうと、腕の振りが一定しなくなり、コントロールを乱しがちになる。
 
 その点を不安視して、阪神のピッチングコーチは藤浪本人に指摘し、矯正するように促していたことだってあっただろう。
 
 ついに藤浪は袋小路に入り込み、自分を見失ってしまった。それどころか、彼の長所であった「空振りをとれた威力のあるストレート」すら放れなくなってしまった。この点が実に痛い。
 
 藤浪自身、努力を怠ったわけではないだろう。彼はもがき苦しみながら、何とか現状を打破したいと対策を練り、日々の練習に励んでいるはずだ。
 
 しかし、それが結果となってなかなか表れてこない。序盤の3回までは好投するも、中盤の4回、5回を迎えたあたりから突如としてコントロールを乱し、手痛いタイムリーヒットを打たれて降板する……この繰り返しだ。
 
「技術の改善」は本人がどう修正していくかが大事だ。そして藤浪自身が技術以前に改善しなくてはならない点が、もう1つある。
 
 それは「お手本となるピッチャーの教えにもっと耳を傾けなさい」ということだ。
 
 阪神にはランディ・メッセンジャーという、日本人選手以上に日本の野球のことを理解した、素晴らしいお手本がいるではないか。
 
 なぜメッセンジャーがこれだけ勝てるのか。勝てるピッチャーになるには、普段からどんな練習に取り組めばいいのか。その練習によって何が得られるようになるのか――など、メッセンジャー本人に逐一聞けばいい。そこから得られるものは、ひょっとしたら阪神のコーチよりたくさんあるかもしれない。
 

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