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「体がつづく限りはチームのために投げていきたい」黒田博樹が示した覚悟

3月29日のマツダスタジアムで、黒田博樹がカープ復帰初戦を白星で飾った。改めて、黒田が投じた96球を振り返ってみたい。

2015/03/30

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ヒーローインタビューの言葉から改めて”覚悟”を感じた

 カープが初優勝した1975年10月15日、弾けたように万感の喜びを語るカープナインの中のひとりだった衣笠祥雄はこういっている。
「きょうの日を、広島市民は永遠に忘れることはないだろう」と。
 
 その言葉を借りれば「きょうの日を、日本の野球ファンは永遠に記憶する」ことになるだろう。
 野球というスポーツにこれだけのインパクトがあり、ひとりの野球人がこれほど心にしみるメッセージを発信し体現できるということを。
 
 試合後のヒーローインタビュー。もちろん主役は黒田だった。
 お立ち台に上がった彼は、目頭を熱くしていたように見えた。
「広島のマウンドは最高でした」
 彼の口からこの言葉が出たとき、なぜか救われたような気がした。
 彼の長かった悩みと苦しみとが報われたことを思って。
 
 これに返礼してスタンドからは、こんな叫びが飛び交っていたことだろう。
「あなたのマウンドも最高でした」
 そして、
「今日のカープの勝利は、あなたが袖にした20億円くらいの価値がある」と。
 
 黒田はインタビューの最後に、抱負を問われてこう応えていた。
「いつまで体がつづくかわからないですけど、つづく限りはチームのために投げていきたいなと思います」
 
 これまでも記者会見の場などで、残された時間は少ないと彼は語ってきた。
 それはわかっているつもりでも、まだまだ彼ならやれるだろうという楽観のほうが勝っていたように思う。
 しかし、きょう実際に試合のマウンドにあがって初勝利した歓びの後に語られただけに、この言葉の切実さは身にしみた。
 
 たしかに不惑を過ぎた黒田に、残された時間はそんなにはないのだろう。
 いつ終わっても悔いのないようにという黒田の心意気は、譬喩でもなんでもなく、選手生命を終えようとしている自身の自覚から出ている実感なのだろう。
 
 どんな大打者も大投手も引退を前にすると尻まわりの筋肉がさみしくなってくる。そんな姿を見るのは忍びないと、カープの老トレーナーはいっていた。黒田にもその日は確実に忍び寄ってきている。
 
 彼が覚悟とともに投じる1球1球を、ファンの我々もまた「これが最後の1球になるかもしれない」という覚悟とともに見届けなければならない……。
 黒田の初勝利の歓喜とともに、そんな感慨にひたった日だった。
 
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