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【日本Sを読み解く】たった1点差にみるパ王者の走塁哲学。ソフトバンクとDeNAの勝負分けた盗塁

日本シリーズ第3戦は、福岡ソフトバンクホークスが横浜DeNAベイスターズを3-2で下し、日本一に王手をかけた。第2戦に続いて、1点差での勝利。勝負を決めたポイントはどこにあるか。

2017/11/01

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走者を進める哲学が生んだ1点の差

 “強力打線”と“巨大戦力”。
 
 ソフトバンクの強さは高いレベルで攻撃と守備が表裏一体となって洗練されている点だ。攻撃をする時は走者を前に進めていく多彩な哲学があり、その分、守備に回った時に相手に同じ攻め方は許さない。
 
 1回表裏の攻防がその一端だ。そして、4回表の攻撃もまた圧巻だった。
 
 先頭の中村晃が四球で出塁。続く6番の松田宣浩は強攻策も、三塁ゴロで二塁封殺。7番・明石健志が中前安打を放つと、一塁走者の松田が一気に三塁を陥れた。
 
 8番・高谷のところで、セーフティースクイズを試みるも、これがファールになる。すると、一塁走者の明石が盗塁を成功、1死2、3塁とした。1塁が空いて9番は投手だから、勝負を急ぐ場面ではないが、そんなDeNAの前進守備をあざ笑うかのよう、高谷が内野手の間を抜く中前適時打。2人が生還した。
 
 ソフトバンクはこのイニングで2度攻撃のミスをしている。松田が塁を進められなかったこと、スクイズの失敗だ。しかし、足で稼ぎ、チャンスを作り直す。そして得たチャンスでしっかり仕事を果たしたのである。
 
 そうして序盤で3点の差がついたのだ。
 
 西武の正捕手・炭谷銀仁朗が、ソフトバンクの強さをこう語っていた。
 
「ソフトバンクは足の速いランナーが1塁にいて、左バッターがシングルヒットを打って、1、3塁のケースの形を作るのが上手い。常にそのことを意識しないといけないから、バッターに集中しづらい」
  
 一方、DeNAは1回の2つの盗塁死で、蛇に睨まれた蛙のような状態になった。
 
 4回裏、ロペスの一発が出て反撃ののろしを上げるのも、そのあとの攻撃は単調に終わった。ソフトバンクの先発・武田の調子がいまひとつ上がらず、四球でチャンスは舞い込んできたが、盗塁も、エンドランも、二つ先の塁を取る積極的な走塁もできず、打者の奮起にゆだねるしかなかった。
 
 一人の選手で二つ以上の塁をどう取るか。走者を進めていくための哲学の差がこの日の両者にあった。
 
 7回からソフトバンクは鉄壁の継投に入った。モイネロ、岩嵜翔、サファテの順に送り込んだが、彼らが苦も無く抑えられたのは、その力量だけでなく、ただ打者と勝負すればいいだけだからだ。
 
 走者が出て盗塁を仕掛けてくるチームなら、投手に仕事が多くなる。それを1回に封じられた時点でDeNAには攻め手が限られてしまった。走者が出ても怖くなかった。
 
「1回は先頭が出ていろんな仕掛けが考えられたので、準備はしていました。投手がボールを長く持ったり、投げる間合いのタイミングを変えてくれていたので、しっかりと刺すことができた。その後に相手が仕掛けてこなかったのは、結果的にですけど良かったです」
 
 この日の殊勲になった高谷はそう振り返った。
 
 長打は1本ずつ。ヒット数は同じ。でも、スコアは3-2。
 
 小さいようで大きな1点。9回裏のマウンドに立った3年連続パ・リーグのセーブ王・サファテがいつになく大きく見えた。

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