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日本中の野球ファンが目撃したNPB史上初の9回。百年語り継がれるべき、リミッターを外した大谷翔平の15球【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#40】

今季の王者・北海道日本ハムファイターズが、パリーグクライマックスシリーズファイナルステージを制し、日本シリーズへ進出する。

2016/10/18

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ファイターズにとっても落とせなかった第5戦

 CSファイナルステージ第5戦は0対4からのスタートだった。ルーキー左腕・加藤貴之が自らのエラーで走者をためて先に失点、あげく松田宣浩に3ランを浴びる。ソフトバンクのしぶとさに声を失った。叩いても叩いても勢いが殺せない。マジ強ぇなぁと思った。既に2敗。スキを突いて足でかきまわす「CS用スペシャル戦術」で、守護神マーティンを攻略し、正捕手の大野奨太を混乱させた。レギュラーシーズンのマッチレース同様、一歩も引かない。それどころか勢いに呑み込まれそうだ。敵のいちばん勢いづくキーマンに3ランを喫した。
 
 ファイターズから見ると第5戦は落とせない試合だった。
 落とせば「3勝3敗」になってアドバンテージを失う。つまり、月曜日の第6戦は大谷翔平登板が濃厚になる。と、何とかソフトバンクを振り切っても、土曜日の日本シリーズ第1戦まで中4日になってしまうのだ。大谷のシリーズ先発起用を考えると第5戦で終わらせられるのか、第6戦までもつれるのかは大違いだ。
 
 0対4のスコアからファイターズの猛追が始まる。まるで第5戦はペナントレースの「最大11.5差からの逆転劇」を1試合サイズにまとめたような、奇跡の逆転勝利だった。

冴えわたった栗山采配

 この日は栗山英樹監督の打つ手が冴えわたっていた。栗山さん自身が「監督になってベストゲーム」と表現したくらいだ。ペナントレース中はガマンの用兵(打てなくても中田翔やレアードを使い続け、打点王やホームラン王に育てたのを思い起こされたい)の印象が強いが、短期決戦ではスパッと切っていく。
 
 この試合は初手から(CSに入ってノーヒットだった)田中賢介を切り、「2番セカンド・杉谷拳士」のスタメン起用だ。2回からは不調の加藤を切り、バースを登板させた。バースが三者凡退で試合の流れを引き戻すと、2回裏、先頭の中田翔が反撃のノロシとなるソロホームラン。ペナントレースとは「1イニングに起きることの密度」が違う。ペナントレースなら加藤続投で立ち直るチャンスを与えたはずだ。
 
 3回はヒットの中島卓也をソッコー盗塁させる。タイムリーを放ったのは抜擢した杉谷だ。2対4まで来た。ソフトバンク先発・摂津正は勝っているのに表情に余裕がない。野球の妙味だなぁ。負けてるほうがプレッシャーをかけることがある。負けてるから怖いものなしだ。
 
 逆転劇は4回裏、敵の投手が東浜巨に代わってだった。東浜は疲れでボールが抜ける。1死満塁になって、ここで栗山監督は大野を切って代打・岡大海を使う。ものすごく早い勝負手だ。このあたりの勘の冴え。岡はセンターオーバーの2点タイムリー。これで同点。続く中島にはスクイズを命じ、ついに逆転、5対4だ。このときの球場の雰囲気が素晴らしかった。繰り返すが「ソフトバンクを打ち負かす1年」がこの1試合に凝縮していた。
 
 その後、近藤健介の2点タイムリーで7対4と3点リードして、皆、ブルペンが気になりだす。クローザーは誰なのか。マーティンはベンチに入っていない。シーズン終盤、吉川光夫が務めたが、安定しなかった。といって、ブルペン入りの顔ぶれを見ると吉川しかいない。大丈夫か。四球で走者を出したら、必ずまたかきまわしてくる。

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