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32年ぶり11連勝。カープ田中広輔、黙して語らずプレーに没頭する勇ましさ――ドラフトに振り回された経験が礎に

セリーグ首位を走るカープは、6月29日の東京ヤクルト戦でも8-1で勝利。84年以来、32年ぶりの11連勝を飾った。今季は上位打線を固定できているのが好調の要因につながっている。特に田中広輔は今季「1番・遊撃手」の地位を確立した。

2016/06/30

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チームが勝ったときが一番うれしい

 ただ、人生とは面白いものである。
 ここから田中に変化が生まれたのだ。プロを断念した途端、体の力がスっと抜け持ち前の力が発揮できるようになったのである。
 
 秋のリーグでは、自身初めてとなる首位打者を獲得。
 ドラフトの頃には、田中の社会人内定に頭を抱えるスカウトも少なくなかったという。
 
「一喜一憂しなくなったことで、プレーに安定性が出てきました。チームが勝った時が一番うれしい。そう思えるようになったんです」
 
 社会人チームに入社しても、自分のことを考えることはなくなった。「打てなくてもチームが勝てばいい。打てない打席があっても、守備でエラーしなきゃいいと思えるようになった」。そう思考を変えるだけで、彼のプレーレベルは上がっていったという。
 
 プロ入り後も、その気持ちを持ち続けている。
 
「バッティングは打っても3割なので、それ以外に何ができるかを考えていますね。打つこと以外に、フォアボールで出ることもできますし、守備や走塁でもできることがあるので、そちらのほうを意識していきたいです」
 
 打率は.283で出塁率は.402(6月29日試合終了時)の高い数字を残し、今も1番を務めている。
 
 今季から一度も1番を外れなかったのは12球団で、西武の秋山翔吾と田中の二人だけである。
 
 菊池や丸のように、プレーにも、言動にも派手さがあるわけではない。
 だが、過去の苦労があった分、今の田中には結果云々より黙して語らずプレーに没頭する勇ましさがある。
 
 往年の広島に必ずいた、職人気質のいぶし銀の漢たちのように。

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